クロモジ – 進化する日本の香木
クロモジは、クスノキ科クロモジ属の落葉低木。日本原産で、関東以西の雑木林などで自生する。名の由来は、若い枝の緑色の樹皮に黒斑があり、それを文字に見たてたと言うのが定説。春になると、黄色い小さな花が集まって咲くこじんまりとした花序と、羽根つきの羽のように上向きに伸びた数枚の黄緑色の葉の組み合わせが、クロモジの存在に気付かせてくれる。しかし、この柔らかで控えめな色彩では、一斉に芽吹く新緑の林の中では、あまり目立つ方ではない。郊外で週末に時々開かれる自然探索のイベントでは、ガイドさんがクロモジを見つけると、葉をクシャククシャにして匂いを嗅がせてくれる。クロモジには強い印象を与える芳香があるのだ。葉や枝には、柑橘系のさわやかな香りがして、古くから和菓子用の高級な爪楊枝になった。また、殺菌作用もあって薬用になったり、実からは油が採れ化粧品になったりした。花も果実も小さく控えめな姿をしたクロモジだが、人間との関わりは随分と深い。

【基本情報】
・名称:クロモジ(黒文字)
・別名:トリキ(鳥木)、トリシバ(鳥柴)、中国名:大葉釣樟(だいようちょうしょう)
・学名: Lindera umbellate
・分類:クスノキ科 クロモジ属の落葉低木
・原産地:日本
・分布:国内では本州の関東以西、四国、九州北部、海外では中国
・花言葉:誠実で控えめ
■生態
落葉低木で、樹高は2~6m程度。幹は太くても10cm程度で、多くの枝が適度に分散するので樹形は自然な広がりを感じさせる。成木の樹皮は灰褐色で所々に円い皮目があるが、若い枝は緑色の滑らかな肌に黒からやがて灰褐色になる模様がでることが多い。雌雄異株なので、春の開花時期には雌花と雄花は別々の株に咲く。葉は枝先に数枚集まるが、これらが枝に対し互生する。1枚の葉は、細長い楕円形で基部は楔型、先端部は尖り、表面は濃緑色で滑らかで、薄く光を遮らない。秋になると黄葉して落葉する。




■花
枝先にある冬芽は、紡錘形の葉芽が中央に、球形の複数の花芽がその脇につく。葉芽も花芽も同時に展開を始める。花芽が膨らむと、表面が破れて複数の蕾が頭を出す。葉芽も外膜が破れて、若い葉が上に向かって成長を始める。花は、若い黄緑色の数枚の葉の脇から散形花序を出し、小さな6弁花を多数咲かせる。これが春のクロモジの典型的な姿だ。クロモジは雌雄異株なので、雌株には雌花が、雄株には雄花がつく。雄花には退化した雌蕊を9個の雄蕊が取り囲むが、雄蕊は先端が2つに割れ、その先に黄色い葯がある。雌花は中央に球形の子房につながる雌蕊があり、その周辺に9個の仮雄蕊がある。








■果実
雌花が咲き終わると、黄緑色の小さな果実ができる。果実は液果で、秋になると黒く熟す。表面に艶があり、果肉にも脂分が多い。これから採取される"クロモジ油"には抗菌や鎮静に効果があるリナロールが含まれ、香料や化粧品、入浴剤などに利用される。果実の中には種子が一つ含まれる。その後、秋には黄葉し、晩秋になると冬芽が出来る。




■クロモジと日本人
クロモジに関する最近の研究では、生育環境が同じでもクロモジの香り成分は"十本十色"で(森林総合研究所)、その利用に関しては様々な可能性がありそうだ。また、クロモジは養命酒の原材料の一つだが、製造元の養命酒製造(株)では更に応用製品としてクロモジのど飴や、香料としてのエッセンシャルオイルを開発・販売し、伝統的な日本の香木の潜在能力を引き出している。更に、信州大学との共同研究では、クロモジ熱水抽出物に持続的なインフルエンザウイルス増殖抑制効果があることを明らかにした(詳細はここをクリック)。クロモジの有用性が証明されると、雑木林に自生していたクロモジを積極的に栽培する動きが全国各地で始まった。クロモジと人間の関係は、新たなステージに進んでいるようだ。