カキノキ – 日本発の国際的フルーツ

 カキノキ(柿の木)は、カキノキ科カキノキ属の落葉小高木。東アジア原産で、各地に固有の在来品種がある。橙色に熟した果実は、一般に"柿"と呼ばれて食用になり、果樹として栽培される。名称のカキノキの由来は、"赤い実がなる木"が転訛したものとの説が一般的。中国では柿(し)、学名はDiospyros kaki、海外に渡った柿は、北米では kaki、英語圏では kaki fruit、ドイツ語やフランス語圏でも kakiで通じるインターナショナルな名称だ。ただ、カキノキには品種が多く、形や味覚も様々。食用として重要な要素は渋の有無だ。かつて日本には渋柿しかなかったが、突然変異で甘柿が生まれた。13世紀初頭に現在の川崎市で偶然発見された禅寺丸だ。その後、品種改良が進み多様な甘柿が増えると同時に、渋柿から渋を抜く方法も考案された。柿の渋さは、可溶性のタンニンがが含まれているためで、これを不溶性に変えることで渋を感じなくなる。このため、渋柿はアルコールや炭酸ガスで渋抜き処理をしたり、干し柿にして食べられている。また、渋柿を絞って発酵、熟成させた柿渋には、昔から防腐、防水用の塗料として使われてきた。更に、渋柿の渋は薬用として下痢止め、血圧降下、毛細血管の老化防止に効能があるとされる。長い歴史の中で、持ちつ持たれつの関係になったカキノキと日本人。現在では栽培地が欧州や南米、中東、豪州などにも広がり、日本発の国際的なフルーツとして認知されている。

たわわに稔る"柿” (2011‎年‎10‎月‎9‎日 所沢市)

【基本情報】
 ・名称:カキノキ(柿の木)
 ・別名:カキ(柿)
 ・学名:Diospyros kaki
 ・分類:カキノキ科 カキノキ属の落葉小高木
 ・原産地:東アジア原産だが、中国説が有力で、古い時代に日本を含む東アジアに広がったらしい
 ・分布:日本では北海道南部から本州、四国、九州
 ・花言葉:自然美、優しさ、恩恵、広大な自然の中で私を永遠に眠らせて(bury me amid nature's beauties)

■生態
 雌雄同株の落葉小高木で、幹はやや曲がりながら上方で枝分かれして丸く広がり、樹高は4~10m程度になる。果実がなると自重で枝が落下することもある程、木質は折れ易い。幹の樹皮は灰褐色で網目状に裂ける。果実が終わると、落葉した葉痕の上に冬芽が出て、やがて春になると冬芽から若葉が生じる。葉は互生し、形は楕円形から卵形で先が尖り、表面に艶があり、葉縁に鋸歯はない。葉柄は1cm程度で、太く短い。秋には紅葉するが、一様に変化するのではなく、個々の葉によって随分様子がが異なるが、晩秋には全て落葉する。

樹形は上方で枝分かれし、丸く広がる (2000‎年‎11‎月19‎日 所沢市)

幹の樹皮は灰褐色で網目状に裂ける (‎2024‎年‎12‎月‎10‎日 所沢市)

果実が終わると、落葉した葉痕の上に冬芽だ出る (‎2024‎年‎12‎月‎17‎日 所沢市)

春になると冬芽から若葉が生じる (‎2002‎年‎4‎月‎6‎日 所沢市)

葉は互生し、ほぼ楕円形で鋸歯はない (‎2003‎年‎5‎月‎10‎日 所沢市)

■花
 今年に伸びた本年枝の基部近くの葉の脇に花がつく。雌雄同株で雌花と雄花があるが、花冠は白色から淡黄色で4裂し、萼も4裂するのは共通。雌花の蕾は葉の脇から単独でつき、4裂した萼は雄花のものよりも大きい。雌花の蕾がほころび始めると、雌蕊の柱頭が見えてくる。雌花の花冠は先の方が外側に反り、雌蕊は1個で花柱は4裂する。雌花の雄蕊は退化したものが、奥の子房の周りに多数残る。

本年枝の基部近くの葉の脇から花柄が伸び、花をつける ‎(2023‎年‎4‎月‎10‎日 所沢市)

雌花の蕾は葉の脇から単独でつき、4裂した萼は雄花のものよりも大きい (‎2004‎年‎5‎月‎15‎日 所沢市)

開き始めた雌花の開口部から、雌蕊の柱頭が覗く (‎2010‎年‎5‎月‎30‎日 所沢市)

雌花の花冠は4裂して外側に反り、雌蕊は1個で花柱は4裂する (‎‎2014‎年‎5‎月‎19‎日 所沢市)

雌花の退化した多数の雄蕊が、奥の子房の周りに多数残る (‎2004‎年‎5‎月‎15‎日 所沢市)

同上 (‎‎2006‎年‎5‎月‎28‎日 所沢市)

 雄花は数個ずつ集まってつき、雌花より小さく、花冠はあまり広がらず釣鐘型をしていて、先は少しだけ反る。萼も小さく花冠からはみ出さない程度。雄花の開口部からは多数の雄蕊(16本らしい)が見え、雌蕊は退化し雄蕊に隠れ見えない。

雄花は集まってつき、雌花より小さく釣鐘形 (‎‎2006‎年‎5‎月‎28‎日 所沢市)

雄花の開口部からは多数の雄蕊が見える (‎2011‎年‎6‎月‎4‎日 所沢市)


 カキノキの花の中には、雄花か雌花か判断し難いものもある。下の写真の花は、花弁は釣鐘形なので雄花のような気がするが、萼は大きく雌花にも思える。カキノキは雌雄同株なので、両性花の可能性もある。柱頭が見当たらないので、自家受粉するのだろうか…と、謎は深まる。

これは雄花、雌花、それとも両性花? (2011‎年‎6‎月‎4‎日 所沢市)

■果実
 雌花が咲き終わると子房が膨れ果実ができる。果実は多肉な液果で、秋から冬にかけて果実は熟し、一般には"柿"と呼ばれる。形は品種によって異なり、丸形(富有柿)、扁平形(次郎柿)、楕円形(百目柿)など、様々。果実の中に種子があり、その数は8個以内。8個の胚珠が準備されているが、そこに種子が出来るかは運次第。カキノキの花は4角、萼は4裂、胚珠は8個など、カキノキの基本数は4のようだ。晩秋になると落葉し、果実だけが残る。これが日本の里山の原風景の典型だ。

カキノキの果実”柿”は、秋に薄緑色から橙色に変化し熟す (‎2008‎年‎10‎月‎5‎日 所沢市)

晩秋になると落葉し、果実だけが残る (‎‎2009‎年‎11‎月‎28‎日 所沢市)

柿を啄むメジロ (‎2024‎年‎12‎月‎10‎日 所沢市)

■紅葉
 秋には紅葉するが、その時期や葉の色模様は一様ではなく、樹木全体が鮮やかな色に染まるわけではない。鮮やかに紅葉した葉の中に、点々と緑色の斑点がつく場合があるが、これは病気や虫食いが原因らしい。この離散的模様や対比的な色使いは超自然的なデザインだと思う。だが、冬が近づくと次々に落葉する。

紅葉の様子は一様ではなく、時期もずれる (‎2024‎年‎10‎月‎27‎日 所沢市)

緑色の斑点は病気や虫食いが原因らしい (‎‎2012‎年‎10‎月‎21‎日 所沢市)

同上、陽の光が透過すると模様が浮き上がる (‎‎‎2014‎年‎9‎月‎30‎日 所沢市)

■カキノキと日本人
 カキノキは果実を食用にするばかりでなく、緻密で堅い幹を家具や茶道具、桶などに使ったり、葉は血管を強化する柿葉茶になったり、殺菌効果を活用してから寿司や餅を柿の葉で包むために使われたりする。柿が登場する俳句や民話も多い。そればかりでなく、最近の研究では、2021年に奈良県立医科大学が、柿渋が新型コロナを不活化し、ウイルスを1万分の1以下の抑制出来るとの成果を発表した。これに呼応して、飴メーカーのカンロが柿渋を含有する飴を口腔内に含み一定時間舐めることで、その効果が確認したとのプレスリリースがあった。痛く発熱覚悟の予防注射より、甘い飴のほうが良い。まだまだ、柿には未知の領域がありそうだ。