ニラ – 現代人には欠かせない緑黄色野菜
ニラ(韮)は、ヒガンバナ科ネギ属の常緑多年草。ニラと言えば、精力のつく中華料理のレバニラ炒めや餃子の食材の主役で、独特な風味のある野菜だ。中国原産と言われているが、日本では、古事記や万葉集に登場するほど古くから栽培され、薬効としての栄養価は古くから認識されていた。しかし、独特の強い香りが、精神の安定を妨げるとされ、仏教や道教では食べてはならない植物とされた。中華料理など香辛料の効いたメニューが普及した第二次世界大戦後に、ニラは野菜としての消費量が飛躍的に増えた。そのため、ニラは一年中市場に出回る。これは、ニラが年がら年中繰り返し収穫でき、しかも数年はあまり手間を掛けずに栽培可能な特性をもつからだ。また、繁殖力も旺盛で、畑から逃げ出したニラが雑草に負けずに混在して繁茂している。結局、畑地で栽培されるものが野菜で、道端にはみ出したものが雑草なのかもしれない。しかし、多数の小さな白い花が傘の上に載っているような散形花序をつくる風景は、とても野菜とは思えない清楚で華やかな雰囲気がある。食しても好し、鑑賞しても好しの植物だ。

【基本情報】
・名称:ニラ(韮)
・別名:フタモジ(二文字)、古美良(コミラ)、中国名:韮菜(きゅうさい)、英名:Garlic chives, Chinese chive
・学名:Allium tuberosum
・分類:ヒガンバナ科 ネギ属の常緑多年草
・原産地:中国
・分布:日本では本州、四国、九州
・花言葉:多幸、星への願い
■生態
地下茎は養分を蓄えられる小さな鱗茎が連なり、そこから2列に並んで生じる茎が上に伸び、その先に葉や花茎をつける。葉は扁平で長く柔らかい。花茎は葉より高く伸びる。全草に独特の匂いがある。その原因物質は、香りの元になる前駆体と呼ばれるアイリンやメチイン等が含まれており、株を切り取ったり調理したときに、内部の酵素と反応して独特の香りを発生する。



■花
花の最盛期は夏だが、その後も断続的に咲き続ける。茎の先に、半透明の総苞に覆われた蕾ができ、やがて総苞の先端が割れて蕾が顔を出す。蕾が広がり、花柄がしっかりすると散形花序をつくり、花柄の分岐点に破れた総苞片が残る。花柄の長さは皆同等なので、茎の先に多数の花が放射状につき、上面は緩やかな曲線を描く。花には6枚の白い花弁のようなものがあるが、太い3枚は本来の花弁で、細い3枚は葉が変化した苞葉。花弁の下に密着して苞葉があり、これが花茎につながる。雄蕊は6本、雌蕊は1本で子房は3室ある。







花盛りのニラには、様々な昆虫が集まる。チョウやハチの類が、蜜を求めて花に止まり花粉の授受を行うので、ニラにとっては歓迎すべき客だ。一方、肉食のテントウムシはアブラムシのようなニラに寄生する獲物を捕食しにきたのかもしれない。これも、目的は異なるが共存共栄の関係なのかもしれない。



■果実
花が終わると3室ある子房が果実になる。このため、果実には3つのかどができる。果実が熟すと3裂し、それぞれの室に黒い種子が1~2個入っている。やがて、種子は近くに拡散され、春になると発芽する。ニラの繁殖方法は、この種子による方法と、鱗茎に蓄えられた栄養分を利用した株分けによる方法もあり、強力な繁殖力を誇る。道路の傍らに生えたニラは、近くの畑から種子がこぼれたものだろうか。





■ニラと日本人
ニラは、古くから薬効は知られていたとしても、独特の香りや宗教的制約などから、野菜の中では薬膳に近い位置に在ったのかもしれない。戦後になり、古い社会通念が一掃されつと、緑黄色野菜のニラは、野菜の脇役から抜け出した。香り成分の前駆体のアリインは酵素と反応して香り成分のアリシンに変化し、ビタミンB1の吸収を促進し、糖質がエネルギーに変わり易くして、疲労回復やスタミナ増強に役立つ。また、前駆体メチインは、胃がんの原因になるピロリ菌の菌増殖抑制効果があることが最近の研究でわかった。食物繊維も豊富なので、便秘にも効きそう。そうすると、健康野菜でありながら、スタミナ料理のレバニラ炒めや餃子をB級グルメの王道に持ち上げたのも納得できる。


