センニンソウ - 雑草として生きるクレマチス

 センニンソウ(仙人草)は、キンポウゲ科センニンソウ属の常緑蔓性半低木。茎の根元付近は木本だが、その先は柔らかい草本なので、仙人草と呼ばれる。センニンソウの名称は、秋になると果実につく綿毛を仙人の髭に見立てたもの。また、別名のウマクワズ(馬食わず)は、茎や葉に触れるとプロトアネモニンと言う成分によりかぶれを起こす有毒植物の証でもある。一方で、学名にある Clematis から分かるように、蔓性の園芸植物の女王と位置づけられるクレマチスと同属でもある。しかし、日本の在来種であるセンニンソウは、馴染のある植物ではあるが、必ずしも有用とは言えない存在だ。陽当りの良い山野や道端に自生し、時には畑地や牧草地に侵入する有害雑草だ。だが、華麗なクレマチスの一族の中では、花は小さく白いだけのセンニンソウは、地味だが最も根源的な存在である。それが、雑草として生き続けるクレマチスの矜持なのかもしれない。

センニンソウの花 (2024‎年‎9‎月‎2‎日 所沢市)

【基本情報】
 ・名称:センニンソウ(仙人草)
 ・別名:ウマクワズ(馬食わず)
 ・学名:Clematis terniflora DC.
 ・分類:キンポウゲ科 センニンソウ属の常緑蔓性半低木(木質の多年草)
 ・原産地:日本を含む東アジアの温帯、亜熱帯
 ・分布:日本では北海道南部、本州、小笠原諸島、四国、九州、沖縄
 ・花言葉:安全、無事、あふれるばかりの善意、精神の美

■生態
 蔓性植物で、茎は長く伸び多岐に分かれて広がる。葉は葉羽状複葉だが、小葉は3~7枚と変化が多く、且つ葉柄が曲がりくねって間延びした形にもなってやや複雑。しかし、小葉の形は明確で、ほぼ卵型で鋸歯がないのが基本。蔓としての機能は、茎や曲がりくねった葉柄が他のものに絡みついて実現する。枝と葉の脇から集散花序をつけ、これが集まると、大きな円錐形の花の集団を作る。

蔓性で、葉は変化の多い羽状複葉をもち、集散花序をつける (2013‎年‎9‎月‎7‎日 所沢市)

茎や、間延びした羽状複葉は、障害物を乗り越え伸びていく (‎2024‎年‎9‎月‎26‎日 所沢市)

小葉は、ほぼ卵型で鋸歯はないのが基本 (‎2024‎年‎9‎月‎26‎日 所沢市)

多数の花序が集まって、大きな花の集団を作る (‎2022‎年‎9‎月‎11‎日 所沢市)

■花
 蕾の形は楕円体だが、先端が尖る。花は十字に見える細く白い4枚の花弁のようなものが目立つが、これは花弁でなく萼片であり、花弁は存在しない。花の中央には多数の雌蕊があり、その周辺に多数の雄蕊がある。開花直後は雄蕊は長く、雌蕊は未だ充分に伸びていない。花の盛りを過ぎると、周辺の雄蕊が垂れ、中央の雌蕊の花柱が伸びる。センニンソウは両性花であり、先に雄蕊が活性化して花粉を他の花に供給し、その後雌蕊が活性化して他の花から花粉を受け取り、自家受粉を回避している(雄性先熟)。 夏から初秋にかけて、蕾や花が混在し、濃淡のある白い花園が広がる。

蕾の先は尖り、花の中央に多数の雌蕊、その周辺に多数の雄蕊 (‎2024‎年‎9‎月‎2‎日 所沢市)

花弁は無く、花弁のような細長い4枚の萼片がある (‎2004‎年‎7‎月‎24‎日 東京都薬用植物園)

花の盛りを過ぎると、周辺の雄蕊が垂れ、中央の雌蕊の花柱が伸びる (‎2020‎年‎8‎月‎23‎日 所沢市)

夏から初秋には、蕾や花が混在して濃淡のある白い花園になる (‎2004‎年‎7‎月‎24‎日 東京都薬用植物園)

■果実
 花が終わると、未熟な緑色の果実ができる。果実は痩果で扁平な卵形で、先に長い毛のある花柱が残る。痩果は熟すにつれ、茶褐色から赤褐色に変化する。熟した痩果の縁は隆起し、花柱についた白い毛は広がる。これが仙人草の謂れである。痩果は、やがて風によって拡散し、たどり着いた土地で発芽する。センニンソウの繁殖方法は、この種子による方法の他に、園芸の世界では挿し木や蔓伏せも行われている。個体の何処かの部分からも再生が可能なのだろう。

未熟な果実は痩果で扁平な卵形をし、先に長い毛のある花柱が残る (‎‎2024‎年‎9‎月‎26‎日 所沢市)

痩果は茶褐色になり熟していく (‎2009‎年‎10‎月‎18‎日 東京都薬用植物園)

赤褐色に熟した痩果の縁は隆起し、花柱についた毛は広がる (‎‎2‎010‎年‎11‎月‎7‎日 所沢市)

痩果はやがて風によって拡散する (‎‎‎‎2024‎年‎2‎月‎14‎日 所沢市)

■近縁種 ボタンヅル
 ボタンヅル(牡丹蔓)は、センニンソウと同じキンポウゲ科センニンソウ属の植物で、良く似ている。葉はボタンに似たきっちりとした1回3出複葉であり、センニンソウの変化の多い羽状複葉と明確に区別できる。花の形はそっくりだが、ボタンヅルの雄蕊は長く萼片の長さと同じくらいだが、センニンソウは雄蕊は萼片より短い。また蕾の先端の形は、ボタンヅルは丸く、センニンソウは尖っている。所沢周辺では、ボタンヅルもセンニンソウも自生しているが、葉の形を見れば確実に区別できる。

ボタンヅルは葉がボタンに似ており、雄蕊が萼片とほぼ同長、蕾の先は丸い (‎2020‎年‎8‎月‎9‎日 所沢市)

■センニンソウと日本人
 日本では、センニンソウの評価はなかなか難しい。馬も食わない有毒植物であり、旺盛な繁殖力で畑地や牧草地にも広がる侵略的植物である。一方、扁桃腺治療の民間療法に使われたり、園芸用では主役に離れないが垣根に使われたりする。しかし、清楚で白く香りに立つ花の姿や、秋風に揺れて咲き誇る花々は、俳句や短歌にも謳われており、日本人の意識の中には組み込まれているように思う。個人的には、称賛されている花が、秋には老人の長い髭のように変容することに何年も気が付かなかった。花と果実の姿の落差は激しい。結局、センニンソウには雑草として生きる強健さと同時にはた迷惑さを感じさせつつも、センニンソウ属の中では、最もプリミティヴな存在として生き続けるのだ。