ノゲシ - 一族は雑草界のコスモポリタン
ノゲシ(野芥子)は、キク科ノゲシ属の越年草。欧州原産と言われるが、日本には有史以前に帰化したと考えられ、在来種として扱われている。そのためか日本では、飢饉などで食料が不足した時にその埋め合わせのための救荒食として利用された時代があった。ノゲシの春の若葉は苦味があるが、茹でて水にさらして苦味を抜けばおひたしになり、茎の皮をむけば、アスパラガスやフキのように食べられるらしい。今では、滅多に食用にはしないが、人家の近くの道端や畑地に自生している。ノゲシはケシ科ではなくキク科で、タンポポのような黄色い花を咲かせる。花期は春から秋までの間と言われていたが、地球温暖化の影響もあるためか、暖かい地域では一年中咲いている。別名のハルノノゲシ(春の野芥子)は、もはや死語になりつつある。同属で姿形がそっくりなオニノゲシが明治時代に渡来すると、繁殖地も共有し、交雑もし、多数の変種も生まれている。ノゲシの一族は雑草界のコスモポリタンとなって、世界を席巻しつつある。

【基本情報】
・名称:ノゲシ(野芥子)
・別名:ハルノノゲシ(春の野芥子)、ケシアザミ、チチグサ、ウマアザミ、中国名:苦苣菜、苦滇菜、苦菜、英名:Common sowthistle
・学名:Sonchus oleraceus
・分類:キク科 ノゲシ属の越年草
・原産地:欧州
・分布:日本を含む全世界
・花言葉:旅人、見間違ってはいや、悠久、幼き友
■形態
ノゲシの花は、春から夏が盛りだが、ほぼ1年中咲く。草丈は最盛期には1mを超える。冬に葉がロゼット状になった株が、春になるとロゼットの中央から茎を伸ばし生長する。葉は光沢がなく、羽状の切込みの先の鋸歯は穏やかで刺状にならない(cf.オニノゲシは光沢があり、鋸歯は鋭い刺状)。また、羽状の切込みについては深いものも浅いものもあり、画一的ではない。葉の基部は茎を抱き、その双方の先端は三角状に張り出す(cf.オニノゲシは茎を挟み込み、その先は円形になって取り巻く)。 オニノゲシとの区別は、葉をよく観察すると特定できるが、葉の形状が個体により変動が大きいので少々厄介だ。





■花
枝分かれした茎の先に、幾つかの頭状花をのせる。花は、タンポポの花に似ているが少し小さい。しかし、全て黄色の舌状花からなり、舌片の先端は微かに5裂する点は同じだ。また、雄性先熟のルールにより、自家受粉を防いでいる。花に関しては、ノゲシもオニノゲシも大差ない。ノゲシの変種には、周辺部の舌状花が白いウスジロノゲシがある。この種は最近増えて目立つようになってきた。



■果実
花が終わると、白い綿毛のような冠毛の集合ができる。それぞれの冠毛の付け根に果実がつく。果実は痩果で、形状は扁平な楕円体だ。この冠毛のついた痩果は、風が吹くとあちこちに拡散し、着地点で発芽する。


■ノゲシと日本人
ノゲシは古くから日本に自生していたため、救荒食として日本人に貢献してきた。しかし、明治時代に欧州原産のオニノゲシが日本に上陸して以来、ノゲシの立場は微妙なものになり始めた。ノゲシとオニノゲシ間の雑種で不稔のアイノゲシの出現、ノゲシの変種で白っぽいウスジロノゲシの増加、茎の腺毛の多い変種ケオニノゲシなど、これらは皆、形態的には大同小異で、遠目には皆同じに見え、ノゲシ属として認識されている。思えば、ノゲシもオニノゲシも欧州原産で、彼の地では長い間共存していると思われるが、現在の日本で発生しているような変種の発生は起きているのだろうか? 背が高くタンポポのような花が幾つも咲くノゲシ属の姿は、鑑賞向きではなくても、雑草としての風格は感じさせてくれる。しかし、派生種を次々に生み出すノゲシ属は、日本の環境の中で、これからどのような変化を見せてくれるのだろうか。そればかりか、雑草界のコスモポリタンであるノゲシ一族は、地球の各地で様々に変容を続けていくのだろう。