コセンダングサ - 変幻自在の雑草
コセンダングサ(小栴檀草)は、キク科センダングサ属の一年草。秋になると何処にでもある雑草だが、それと特定できるまで、少し説明が必要だ。属名中のセンダン(栴檀)はセンダン科の樹木で、葉が同じ羽状複葉の草本のキク科の在来種をセンダングサ(栴檀草)と呼ぶようになった。やがて明治時代になると、北米から良く似た外来種が渡来し、これをコセンダングサ(小栴檀草)と命名した。このコセンダングサについては、花の構造が少しだけ異なるアイノコセンダングサ(合いの小栴檀草)とコシロノセンダングサ(小白の栴檀草)と言う変種が存在し、これら3つを併せて広義のコセンダングサと呼んでいる。コセンダングサは秋になると花をつけ始め、冬まで順番に咲き続ける。花は小さく目立たないが、その後にできるウニのような形をした果序は、先端にかぎ状の剛毛がついた棘ののような果実の集合体で、衣服などに付着する、所謂ひっつき虫と呼ばれるものである。冬の枯れたコセンダングサの果序が連なる野原は、殺伐として荒涼とした風景に変容し、コセンダングサは立派な雑草であることを思い知らされる。

【基本情報】
・名称:コセンダングサ(小栴檀草)
・別名:三葉鬼針草、ひっつきむし
・学名:Bidens pilosa var. Pilosa
・分類:キク科 センダングサ属の一年草
・原産地:北アメリカ
・分布:日本では関東以西、世界的には暖帯から熱帯にかけて広く分布
・花言葉:味わい深い、悪戯好きな子供、移り気な方、近寄らない
■生態
一年生の草本で、草高は大きいものは人の背の高さ程にもなる。茎は直立するが、枝分れし横にも広がる。若い枝は淡緑色で細かい毛が多いが、秋になると赤味を帯びる。葉は対生し、羽状複葉で、多くは3~5枚の小葉に分かれ、葉縁の鋸歯は鋭くない。コセンダングサは種子によって増え、繁殖力が強く、群生する。また、太い茎には気根が付くこともある。






■花
始めに広義のコセンダングサの花の構造を説明する。狭義のコセンダングサは頭花は黄色い筒状花のみ。アイノコセンダングサは頭花の外周部の数個の筒状花が白くなったもの。そして、コシロノセンダングサは、頭花の中央部は黄色い筒状花だが外周に白い花弁を持つ舌状花が数個あるもの。こう説明すると明確に区別できるように思うが、現実はそうでもない。例えば、コシロノセンダングサの舌状花の大きさがバラついたり、個別の花では舌状花がなかったりもする。アイノコセンダングサも然り。形状がアナログ的に変化するようで、1は0かのデジタル的な判定は難しい。そもそも、広義のコセンダングサを改めて定義する必要があるのだろうか、それとも生育環境などの条件によっても変化するものだろうか、これは種の定義とも絡み難しい問題だ。


秋以降に、次々に枝先には蕾や花をつける。これらと花茎の間には萼ではなく総苞によって束ねられている。コセンダングサの花は、筒状花の集合体で、一つの筒状花には筒状の花冠、雄蕊の葯の集合体、雌蕊の柱頭、そして萼がセットになっており、雄性先熟のルールで各部分が順次機能を果たすようになっている。始めは黄色い頭花の上に黒っぽい筒状のものから雄蕊の葯が出て花粉を出し、その後に葯に替わって雌蕊の2裂した柱頭が現れ花粉を受け取る準備をする。この時間差によって自家受粉を防ぐ仕組みになっている。これは、アイノコセンダングサもコシロノセンダングサも同様だ。また、所沢近辺では3種のコセンダングサグループのうち、コセンダングサとアイノコセンダングサが多く、コシロノセンダングサが少ないように思われる。








コセンダングサに集まる昆虫は、ハチやチョウ、甲虫などが多く、花粉を運ぶ役割を果たしている。繁殖の手段は種子散布であるため、これは重要なプロセスだ。



■果実
花が終わると果実が出来るが、果実は個々の花に対して出来るので、先ず果実の塊である楕円体の果序が現れる。この果序は中心部が盛り上がって見えるが、外側に並ぶ果実は短く、中心部の果実が長い。これが全開すると球形になり、その中心が下寄りになる。果序に含まれるそれぞれの果実は痩果で細長く、先端に2~3裂したかぎ状の剛毛がついた棘のようなものだ。実は、この棘は萼の変形したものだ。動物や人間がこれに触れると、しっかりと体や衣服に付着し、ひっつき虫となって、種子を拡散する。コセンダングサが枯れた後の群生地は、多くの球状の果序が空中に漂っているようで、なかなか幻想的な風景だ。





■コセンダングサと日本人
日本人はコセンダングサを、何の役にも立たない雑草だと思っている。花は特に美しいわけではなく、果実は不気味で、鑑賞の対象にはなり得ない。更に、季語もなく文学にも謳われた例もない。現実的な人間との付き合いは、迷惑なひっつき虫対策と、重労働の草刈りだろう。しかし、コセンダングサは日本に渡来して未だ百年余りだが、関東以西ではしっかりと根づいてしまった。植物としての種の曖昧さ、生育環境への対応能力などを発揮しながら、不揃いの花を咲かせ続けている。日本人は厄介な植物と思って歓迎しないが、一方で変幻自在の生き方をする雑草であり、したたかな雑草らしい雑草とも思う。