ガガイモ – 風変わりな無愛想者

 ガガイモ(蘿藦)は、キョウチクトウ科ガガイモ属の蔓性多年草。日本の在来種であり、北海道、本州、四国、九州に分布する。名の由来は諸説あるが、分かり易いのは、芋の形をした実が割れると、内側が鏡のように光るのでカガミイモ(鏡芋)の名がつき、これが訛ってガガイモとなったとの説がある。平安初期の薬物本"本草和名"で中国語名の蘿藦がガガイモと定義され、漢字表記が決まった。古くから、種子や葉は薬用に、若い芽は食用として利用されてきた。しかし、本来のガガイモは繁殖力の旺盛な蔓性の雑草であり、陽当りの良い草原や道端、林縁などで他の植物や柵などに絡みついて成長する。ガガイモの存在に気がつくのは、夏に毛むくじゃらの淡紫色の花が咲いてからだ。花の構造も普通の花とはかなり異なり少し変だ。しかし、花の周りには多くの虫たちが集まり賑やかだ。虫たちを引き寄せるモノがあるのだろう。花が終わり、若い果実が出来る。サツマイモのような形だ。ガガイモの名称の半分は体験的に理解できた。それにしても、風変わりな植物ではある。

ガガイモの花 (‎2022‎年‎10‎月‎27‎日 所沢市)

【基本情報】
 ・名称:ガガイモ(蘿藦)
 ・別名:ゴンガラ、ガンガラ、カガミグサ、クサパンヤ、トウノキ、クサワタなど、方言は多数
 ・学名:Metaplexis japonica
 ・分類:キョウチクトウ科 ガガイモ属の蔓性多年草
 ・原産地:日本を含む東アジア一帯
 ・分布:日本では、北海道、本州、四国、九州
 ・花言葉:味わい深い、清らかな祈り

■生態
 蔓性多年草で、長い地下茎の先から、地上に茎を出す。この地下茎からも栄養繁殖が可能なので、種子による発芽と併せ、繁殖力は盤石。蔓は右巻きで、他の植物などに絡んで成長する。葉は対生し、形は長卵形で、基部は心形、先が尖る。葉はやや厚く、裏面はやや白く、無毛で全縁。秋には、黄葉する。

他の植物などに覆いがぶさり群生する (‎‎2014‎年‎8‎月‎2‎日 帯広市)

蔓を伸ばして、対生の葉や花序をつくる (‎‎‎2024‎年‎6‎月‎14‎日 所沢市)

葉は長円型で、やや厚く無毛で全縁 (‎‎2014‎年‎8‎月‎2‎日 帯広市)

葉の脇から長い花柄の先に円錐花序をつくる (2024‎年‎6‎月‎14‎日 所沢市)

■花
 葉の脇から、2~3段の円錐花序をつけ、花は下方から咲く。花の色は、淡紫色から白色まで幅がある。花の形はシンプルだが、各部分の機能との関連付けがやや複雑。花冠は深く5裂して先端は反り返り、花冠の内側に毛が密生する。花の中央に雌蕊の柱頭のようなものがあるが、その先頭部はよれよれで、花粉を受け取れるようには見えない。また、雌蕊を取り巻く雄蕊も見当たらない。不思議な構造だ。この課題に取り組んだ研究がある(詳細はここ)。これによると、実は雌蕊の柱頭は花の基部近くの子房の上にあり、外に飛び出したヒゲのようなものは雌蕊の付属体のようだ。5本の雄蕊も花の基部にあり、外からわずかに見えるのはその葯の部分で、その裏に花粉がある。そして基部には密が溜まっている。花粉を運ぶ昆虫の立場からすると、花の奥深くまで頭を突っ込まなくてはならず難儀な構造だ。地味な花でも昆虫を引き寄せる秘密は、密のようだ。そうすると、ヒゲのような雌蕊の付属体は、密のありかを知らせて誘導する目印のようなものかもしれない。

円錐花序に段を作って花がつく (‎‎‎2006‎年‎7‎月‎29‎日 所沢市)

淡紫色の花 (‎‎‎‎2022‎年‎10‎月‎27‎日 所沢市)

白色の花 (‎‎‎‎2004‎年‎7‎月‎24‎日 東京都薬用植物園)

花の構造 (‎‎2014‎年‎8‎月‎10‎日 帯広市)

 ガガイモの花に集まる昆虫は様々。ミツバチやハナバチの仲間は、花粉を媒介してくれるので、ガガイモにとっても、give and take 関係にある。アリは花の中に潜り込んで密を吸っている。アブラムシの集団は茎に群がり、宿主にあたるガガイモの維管束に口針を突き刺して師管液を吸って生活している。このアブラムシとアリは、何と共生関係にあり、自己防御力が弱いアブラムシはアリに外敵から守ってもらうかわりに、アブラムシはガガイモの師管液から作った甘露を肛門から排出し、アリに与える。ガガイモにとっては何ら利益はなく、アリとアブラムシの集団は迷惑な存在に違いない。

花めがけて飛ぶのはコハナバチの仲間か (‎‎2009‎年‎8‎月‎14‎日 帯広市)

花の基部に潜り込むアリたち (‎‎2014‎年‎8‎月‎10‎日 帯広市)

茎に群がるのはキョウチクトウアブラムシか (2024‎年‎6‎月‎14‎日 所沢市)

■果実
 花が終わると、未熟な緑色の果実が出来る。果実は紡錘形の袋果で、表面にはイボ状の突起がある。熟すと割れて中から長い綿毛のある種子があり、風によって散布される。残った果実の殻は翌年まで残ることがある。

花後に出来た未熟な果実 (‎‎2008‎年‎8‎月‎20‎日 帯広市)

果実は袋果で、表面にはイボ状の突起がある (‎2013‎年‎8‎月‎15‎日 帯広市)

熟して割れ、白い毛の生えた種子が風で飛ばされた後の果実の殻 (‎‎2023‎年‎7‎月‎24‎日 帯広市)

同上 (‎‎2023‎年‎7‎月‎24‎日 帯広市)

■ガガイモと日本人
 日本人のガガイモに対する感情は、肯定的なものと懐疑的なものに分かれると思う。ガガイモは在来種であるためか、日本人は様々に利用して恩恵を得てきた。種子の毛を綿の代用にしたり、種子は漢方で蘿摩子(らまし)と呼んで強壮薬にしたり、若芽などは茹でて食べたりした。ガガイモの名称の由来の中には、日本神話に出てくる船はガガイモの実を2つに割ったものとの説もある。更に、地方によってガガイモの呼び方は、幾通りもある。これらの事象は、ガガイモの有用性と親しみを感じさせるものだ。しかし、一方でガガイモは侵略的性格を持つ蔓性の雑草であり、生態系への影響を考慮して駆除もされつつも、しぶとく生き延びている。秋に咲く小さな花は地味で目立たず、四季の移り変わりを象徴するようなものにもなれない。勿論、文学作品のテーマになることもなく、鑑賞にも値しない存在と認識されている。だが、被子植物でありながら、特殊な花の構造によって、昆虫との共生をはかりつつ、精巧な受粉システムを組み立てている。愛想のない毛むくじゃらの花は、実は精密な機械仕掛けのような花だったのだ。外から見ると、想像もつかない世界が広がっている。