ユリノキ - 古い奴こそ、未来がある

 ユリノキ(百合の木)は、モクレン科ユリノキ属の落葉高木。北米東部の原産だが、街路樹や庭木として、世界の温暖な地域で植栽されている。ユリノキの特徴は、空高く伸びる自然な樹形、枝先に上向きに咲くチューリップ形の黄緑色の花、半纏のような形をした葉、そして紅葉と冬になっても枝先に残る果実などであり、季節ごとに変化がある樹木だ。日本に渡来したのは明治初期だが、当時は学名Liriodendron tulipifera (チューリップのような花をつける百合の樹木)から、未だよく知られていないチューリップを除き、ユリノキとなったらしい。英国では花からチューリップツリー、米国では樹形からイエローポプラなどと呼ばれた。日本では、葉の形からハンテンボク(半纏木)、グンバイボク(軍配木)、ヤッコダコノキ(奴凧の木)とかの名もついた。想像力を掻き立てる何かがあるようだ。ユリノキは背が高く、花も枝先に上向きに咲くので、何時もは花の存在に気付かずに、その下を通り過ぎてしまう。しかし、たまに垂れ下がった枝に咲く花をしみじみと眺める機会があると、これはユリでもなく、チューリップでもなく、やはりモクレンの一族だと気がつくのだ。

下から見上げるユリノキの花と葉 (‎2005‎年‎5‎月‎21‎日 所沢市)

【基本情報】
 ・名称:ユリノキ(百合の木)
 ・別名:ハンテンボク(半纏木)、グンバイボク(軍配木)、ヤッコダコノキ(奴凧の木)、英国ではチューリップツリー、米国ではイエローポプラ、など
 ・学名:Liriodendron tulipifera
 ・分類:モクレン科 ユリノキ属の落葉高木
 ・原産地:北米東部
 ・分布:日本には明治初期に渡来、世界の温帯地域でも植栽されている
 ・花言葉:見事な美しさ、幸福、田園の幸福、早く私を幸福にして

■生態
 樹高は20~30mと高く、枝の分岐も多いが、上に伸びる力が強く、自然に整った形になる。また、生長が早く、住宅地の街路樹では、年月の経過とともに大きくなり過ぎるので、幹の上部や枝を剪定された株を見かける。幹は太く直径50~100cmにもなり、樹皮は灰褐色で、縦に不規則な裂け目ができる。 葉は互生し、葉柄は長い。葉の質は薄くて硬く、表面は光沢がある緑色。葉の形は特徴的で、頂端と左右に幾つかの切れ込みがあり、ちょうど江戸時代の職人が着ていた半纏の形に似ている。大木のせいか葉の量は多く、茎に沿って多数の葉の新芽がつき、新葉の基部には、托葉のようなものが残る。秋には黄葉し、やがて黄褐色に変化し、落葉する。

樹高は高く優雅だが、枝の分岐も多い (‎‎‎2014‎年‎5‎月‎18‎日 航空公園)

高木になるので、住宅地では幹の上部や枝を剪定された株もある (‎‎‎2023‎年‎11‎月‎28‎日 所沢市)

幹の樹皮は灰褐色で、縦に不規則な裂け目ができる (‎‎2024‎年‎9‎月‎21‎日 航空公園)

葉は半纏の形をして浅く数回裂け、薄く硬い (‎‎‎2004‎年‎4‎月‎25‎日 航空公園)

茎に沿って多数の葉の新芽がつく (‎‎‎2004‎年‎4‎月‎25‎日 航空公園)

新葉の基部には、托葉のようなものが残る (‎‎‎2004‎年‎4‎月‎25‎日 航空公園)

秋には黄葉し、落葉する (‎‎‎2023‎年‎11‎月‎28‎日 所沢市)

■花
 花に先立ち、先端が尖った楕円体の蕾が枝先に上向きにつく。開花直後は花被片は一つに集まっているが、開花が進むと9枚の花被片のうち外側の3枚は緑白色で水平に開き萼のようになり、内側の6枚は花弁状に上向きに直立して碗状になり黄緑色を帯びて基部に朱色の斑紋がある。花の内部は、雌蕊は先の尖った楕円体に集まって中央に、雄蕊はその周囲に葯を外向きにして多数つく。このような特徴は被子植物における原始的な特徴と言われる。低い位置にある枝先に咲く花を見つけ、上から撮影ができると、普通の植物とは構造が異なり、古代植物の生き残りであることが分かる。花期の終わりには、花被片は萎れ、雄蕊とともに落ちる。

蕾は先端が尖った楕円体 (‎2014‎年‎5‎月‎18‎日 航空公園)

葉に隠れ、高い枝先に咲く花に気がつき難い (‎‎‎‎2005‎年‎5‎月‎28‎日 所沢市)

開花直後の花 (‎2014‎年‎5‎月‎18‎日 航空公園)

花被片の外側3枚は萼相当、内側6枚は花弁相当で、基部に朱色の斑紋 (‎2023‎年‎6‎月‎1‎日 航空公園)

雌蕊は円錐形に集合して中央に、雄蕊はその周囲に多数つく (‎2014‎年‎5‎月‎18‎日 航空公園)

同上 (‎2014‎年‎5‎月‎18‎日 航空公園)

花期の終わりには、花被片は萎れ、雄蕊とともに落ちる。 (‎‎‎‎‎2005‎年‎5‎月‎21‎日 所沢市)

■果実
 花後にできた緑色の未熟な果実は、秋になると黄褐色になって成熟する。この楕円体の果実の集合体は、各雌蕊から成長した多数の翼果が集まって松笠状になったものであり、翼果には1~2個の種子が含まれる。この翼果は種子を含んだまま各々回転しながら落下して風散布される。枝には、晩秋から初冬にかけて最外輪の果実だけがコップ状になって残る。場合によっては、翌春まで新緑の中で残るものも見かける。

花後にできた未熟な緑色の果実 (‎2023‎年‎6‎月‎1‎日 航空公園)

秋には果実は熟す (‎‎2024‎年‎9‎月‎21‎日 航空公園)

果実は翼のある種子が合体した集合果 (‎‎2024‎年‎9‎月‎21‎日 航空公園)

冬には果実は内側から砕け始める (‎‎‎‎‎‎2008‎年‎12‎月‎29‎日 所沢市)

■ユリノキと日本人
 ユリノキは明治初期に渡来し、日本での歴史は浅い。日本での最初の植樹は新宿御苑だが、堂々とした樹形で黄葉もするユリノキは、メインストリートの街路樹や広大な敷地のある公園樹として植栽され、徐々に日本各地にユリノキ並木が出現した。街路樹の役割は、四季の花や葉の変化による景観の豊かさや、ヒートアイランド現象の緩和、人と車の通行帯の分離などであり、手入れの容易さも求められる。日本の三大街路樹と言えば、イチョウ、サクラ、ケヤキであり、これらは条件を満たし納得できる。それでは、ユリノキはどうか?景観は悪くはないが、花は見難い位置にあり、黄葉もやや地味。何よりも、かなりの大木になるので広いスペースがなければ植栽出来ず、日本ではユリノキの街路樹はどうしても限定されてしまう。そうすると、ユリノキの存在意義は何か? それは古代植物の形態を色濃く残して、現代にも生存し続けていることだろうか。恐竜時代には、巨木のユリノキの先に咲く花を、首の長い草食恐竜がついばむイメージを想像してしまう。ユリノキは、街路樹でも公園木でも植物園の標本木でも構わないが、何としても後世にも残すべき植物だと思う。