新交響楽団第267回演奏会 - 挑戦と普遍

 日本の指折りのアマチュア・オーケストラの新交響楽団(新響)の演奏会に出掛けた。ホームグランドは池袋の東京芸術劇場だが、今回は設備更新工事のため、錦糸町のすみだトリフォニーホールでの開催となった。ここの大ホールはシューボックス構造で、少しコンパクトだが、パイプオルガンも備えた本格的な音楽専用ホール。今回の指揮者は、一般の大学で経済学を学んだ経験があり、音楽の世界では後期ロマン派以降を得意とする新進気鋭の坂入健司郎氏。演目は3つ。ルトスワフスキの小組曲、ヤナーチェクの歌劇「利口な女狐の物語」組曲、そしてブルックナーの交響曲第4番。新響は何時も珍しいレパートリーに挑戦しているが、これは坂入氏の嗜好とも一致しているのかもしれない。
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 ルトスワフスキ(1913~1994)は、ポーランドの現代音楽の作曲家。小組曲(1950)は4曲からなり、ポーランドの民族音楽と社会主義的リアリズムの枠の中で作曲された。小組曲と言えば、有名なドビュッシーのものや、シベリウスのカレリア組曲のように息の長い旋律と情緒的な音楽を想像するが、ルトスワフスキの小組曲は、短かく鋭いフレーズや強力な通奏低音も重なり、緊張感が漂う。社会的リアリズムと共生したショスタコービッチと同様に、ルトスワフスキもかなり苦労してのではないかと想像する。曲の成り立ちも、演奏の技術面も、聴衆の受容性も一筋縄ではいかない難曲と感じた。

 ヤナーチェク(1854~1928)は、チェコのモラヴィア地方の作曲家。ヤナーチェクと言えば管弦楽曲シンフォニエッタの親しみ易いメロディーでお馴染みだ。今回の歌劇「利口な女狐の物語」組曲は、物語がやや複雑。主人公の女狐の他に、様々な生き物や人間が登場し、物語が複雑に絡み進行する。それぞれの音楽のモチーフはそれほど違和感はなく部分的には楽しめるのだが、物語を理解していなければ、音楽の流れについていけない。これは、ペトルーシュカ、バレリーナ、ムーア人の3人組の物語より遥かに複雑だ。聴衆がもしモラヴィア人であれば、ディズニー映画「ファンタジア」でも観るように理解できるのだろう、多分。

 休憩後は、ブルックナーの交響曲第4番。予備知識無しでも楽しめる絶対音楽で、押しては返す音楽の流れに身を任すと、前半の音楽で強張った頭が解き放される。坂入氏はインテンポを守り、ストレートにしっかりとした足取りで音楽を進める。ブルックナー開始も休止もそれ程目立たない。しかし、次第にメリハリがつき、終楽章に入るとオーケストラ全体の音圧は上昇し、すっかりブルックナーの世界に没入してしまった。

 今回の新響も、滅多に演奏されない個性的な曲と、所謂名曲の組み合わせになった。これは音楽に対する好奇心も満たされ、聞き慣れた名曲を臨場感あふれる生演奏で聴くと新発見もあり、興味深い。これからも独特なプログラムを期待している。

すみだトリフォニーホール入口

ホール舞台側

ホール客席側

カーテンコール