ギンモクセイ - 地味な少数派
ギンモクセイ(銀木犀)は、モクセイ科モクセイ属の常緑小高木。別名で、単にモクセイ(木犀)と呼ぶこともあるが、これは植物分類上の科や属を指すこともあり、区別する必要がある。同属のキンモクセイと共通点は多いが、ギンモクセイを特徴づける相違点もある。植物的には、樹形や枝葉、花の形や花期もほぼ同じだが、花色は白で、キンモクセイの橙色と較べると目立たず、香りも弱い。中国原産で、江戸時代に雄株だけが庭木として植栽されたが、その後に雌雄両株が揃い、日本では実のならないキンモクセイと異なり、結実するようになった。もともと、両者とも庭木や街路樹としての植栽されたが、花色も香りも大衆受けするキンモクセイには敵わず、ギンモクセイに遭遇する機会は多くない。その中でも、ギンモクセイの雄株は雌株よりも花の数が多く、香りも比較的強いため、必然的に雄株だけが優先的に植栽された。なんと不自然な生存環境だろう。これは、御利益優先の人間の思い上がりである。数寄者は地味な少数派に価値を見出す。果たして、ギンモクセイはどのような価値を持つのだろうか?

【基本情報】
・名称:ギンモクセイ(銀木犀)
・別名:モクセイ(木犀)、中国名は桂花、九里香
・学名:Osmanthus fragrans
・分類:モクセイ科 モクセイ属の常緑小高木
・原産地:中国
・分布:日本では、東北南部以南の地域で栽培可能
・花言葉:初恋、高潔、唯一の恋
■生態
ギンモクセイは常緑広葉樹なので、剪定をしなければ、樹形は丸く横に広がる傾向があり、樹高は10mにもなる場合がある。樹皮は動物のサイ(犀)の肌のような淡い灰褐色。葉は対生し、枝分かれが多いため密生する。葉の形は、長めの楕円形か広披針形で、葉は波打つ。葉は濃緑色で、触感は革質。キンモクセイとは異なり、葉縁には粗い鋸歯がつくことがある。若い本年枝の葉の付け根付近から、花芽が出る。




■花
ギンモクセイは雌雄異株なので、雄株には雄花、雌株には雌花がつく。雄花は、葉の脇についた幾つかの花芽から細い花柄が伸び、その先に蕾がつき、開花が始まる。花は集散花序を形成して一斉に開花し、花色は白からクリーム色。花の先が4裂し、雄蕊2本と雌蕊らしき小突起があり、萼は浅く4裂する。枝には花序が連なり、芳香を拡散するが、キンモクセイと比較すると、花数は疎らで、香りも弱い。花の寿命は僅か1周間程度で散る。花色はクリーム色のものもあるが、近縁種で同属のウスギモクセイ(薄黄木犀)の花と形は同じで薄黄色い花とよく似ているので、区別が難しいかもしれない。雌花は雌株につくが、この近所では東京都薬用植物園には確実にあるので訪ねたが、時すでに遅し。花は枯れて褐色になっていたが、子房が膨れ果実になりそうだ。雌花の構造はどうなっているのかは、鬼に笑われても来年の課題だ。






■果実
日本のギンモクセイは、雄株も雌株も揃ったので、果実ができる。果実は核果で、1cm超の楕円体で、翌春に黒紫色に熟す。しかし、これが繁殖に使われる機会はほぼない。庭木としてのギンモクセイは、雌株に対して雌株は圧倒的に少ないので、接ぎ木によって次世代へ命を繋いでいるのが実態だ。



■ギンモクセイと日本人
ギンモクセイとキンモクセイは同属で、同じ時期に中国から庭木として渡来した。キンモクセイには雌株はなく、ギンモクセイは雌雄両株は揃っているものの実質的に自生は困難。従って、両種とも庭木や街路樹のカテゴリーの中で限定的に存在し、生殺与奪の権利を人間に預けてしまった。両者の相違と言えば、キンモクセイは華やかな橙色の花色と強い芳香、キンモクセイは地味な白い花色と微かな芳香、まさに陽と陰ではあるが、両者が揃ってモクセイ属の豊かさと選択の楽しみが成立する。植栽された数からすると、圧倒的にキンモクセイに人気があるが、地味で少数派のギンモクセイの静謐で高潔な雰囲気を良しとする日本人は多いと思う。判官贔屓だろうか。