キンモクセイ - 謎の芳香植物
キンモクセイ(金木犀)は、モクセイ科モクセイ属の常緑小高木樹。同属のギンモクセイの変種と言われている。中国原産で、日本には江戸時代に雄株だけが渡来し、専ら植木として普及している。和名"金木犀"の由来は、金は橙色の花を金に見立て、木犀は樹皮が動物の犀の肌に似ているため。キンモクセイは、普段は目立たない常緑樹だが、初秋になると俄然と存在感が増す。橙色の多数の花から放出される爽やかな芳香は周辺に拡散し、離れた場所からでもキンモクセイの存在を知らせてくれる。このため、ジンチョウゲやクチナシとともに、日本の三大芳香木にもなっている。人間は、キンモクセイを芳香剤の原料にしたり、菓子や茶、酒などの香味料にも利用しており、馴染み深い植物になっている。しかし、日本には雄株しか存在しないと言う事実が、様々な憶測を呼んでいる。キンモクセイは雌雄異株で、中国では雌株は冬にクコの実ほどの小さな紫色の実をつけると言われている。日本の"キンモクセイ"に相当する中国の"丹桂"は本当に同じ種類か、それとも、キンモクセイ自体が日本独自に育てられたモクセイの変種の一つに過ぎないのか、果ては、中国から雌木を日本に持ち帰り栽培しても雄木に変わってしまうと言う都市伝説まである。謎の多い植物でもある。

【基本情報】
・名称:キンモクセイ(金木犀)
・別名:中国では丹桂
・学名:Osmanthus fragrans var. aurantiacus
・分類:モクセイ科 モクセイ属の常緑小高木樹
・原産地:中国
・分布:日本では、東北南部から九州
・花言葉:謙遜、気高い人、真実、誘惑、陶酔
■生態
キンモクセイは常緑広葉樹なので、樹形は丸く横に広がる傾向がある。樹高は10mになるものもあるが、街路樹や庭木として植栽されるので剪定され、樹形は様々。幹は太く、樹皮は動物のサイの肌のような淡い灰褐色。葉は対生し、枝分かれが多いため密生する。葉の形は、長めの楕円形か広披針形で、葉縁は波打つ。葉は濃緑色で、触感は革質だが薄い。若い本年枝の葉の付け根付近から、花芽が出る。





■花
キンモクセイは雌雄異株だが、日本には雄株しかないので、ここでは雄花について記述する。葉の脇についた幾つかの花芽から細い花柄が伸び、その先に薄黄色の蕾がつく。蕾の色が濃くなり、開花が始まる。同じ花序の花は、一斉に開花し、花色は橙色になる。花の先が4裂し、雄蕊2本と雌蕊らしき小突起があり、萼は浅く4裂する。花が咲くと、枝には多くの花序が連なり、強力な芳香を拡散するが、花の寿命は僅か1周間程度だ。花が散ると、樹の周辺は落ちた花で敷き詰められ、橙色の絨毯のようになる。また、日本のキンモクセイは、雌花がないので果実がならない。このため、繁殖はヒイラギを台木とした接ぎ木か、挿し木による方法が採られる。







■キンモクセイと日本人
キンモクセイと言えば、やはり癒やされる芳香だ。道産子の当方は、キンモクセイの初体験はトイレの芳香剤だった。就職で上京して、初めて本物のキンモクセイに出逢った。匂いばかりでなく、少し歪んだ十字系の橙色の小さな花の集団は美しいと思った。キンモクセイの香りと美しさを堪能できるのは、秋のほんの短い間だけだ。散ったあとの花の絨毯も潔い。日本人の感性にあっている。春の桜のようだ。そう思うと、日本に根付いたキンモクセイという植物が、本当はなどのような経緯を経て成立したのか知りたくなった。


