アレチウリ - やはり、嫌われ者か
アレチウリ(荒れ地瓜)は、ウリ科アレチウリ属の蔓性一年草。原産地は北米で、1952年に静岡県清水港で、輸入大豆に本種の種子が混入しているのが確認された。豆腐の原料として輸入大豆の販路が拡大し、数十年後の現在では日本各地で自生している。株当りの種子数が多いので繁殖力は凄まじく、特定外来生物に指定されている。当地でも、住宅地の中を流れる小川の転落防止用の長いフェンスは蔓性植物の絶好の棲み家で、クズ、アレチウリ、ノブドウ、ヤブカラシ、ヘクソカズラ、ヒヨドリジョウゴ、イシミカワなど、まるで植物園のよう蔓性植物が並び、その中でもアレチウリは大きな領域を占有している。アレチウリは、実に苦さや渋みがあって食用にはならないし、病原性があるのでスイカなどの作物に影響を与えることがある。このため、各地の自治体ではアレチウリの駆除を進め、畑地の傍のアレチウリの群生は、刈り取られ跡形もなくなることがよくある。また、植物の形態も、花も実も目立たず、大量の葉と伸び続ける蔓が非日常的な風景を創り出すので、美的な鑑賞には向かない。これ程、人に嫌われるアレチウリとは何者だろう?

【基本情報】
・名称:アレチウリ(荒れ地瓜)
・別名:英名では burr cucumber(トゲのあるキュウリ)
・学名:Sicyos angulatus
・分類:ウリ科 アレチウリ属の蔓性一年草
・原産地:北米、後に、南米、欧州、アフリカ、アジア、オセアニアに移入分布
・分布:日本では全国各地に自生
・花言葉:活気、生命力、邪魔者
■生態
一年生の草本ではあるが、蔓性の茎の長さは数mにもなり、巻きひげで他のものに巻きつき覆い隠す。全体に毛が多く、茎には刺状の剛毛がある。葉は長い葉柄を持ち、葉身は円心形で浅く5~7裂する。葉に対生して蔓がつき、蔓は途中で3分岐する。葉のみに注目すると、茎に対し互生する。雌雄同株で、雌雄異花。同じ茎の葉の脇から、雌雄別の花序を出す。





■花
雄花の花序には長い柄があり、その先に短い花柄のある淡緑色の花を総状に数個つける。雄花の構造は、雄蕊と葯は合着して一体となっており、花弁は基部で合着するが先で5裂する。雌花は雄花よりひと回り小さい。雌花の花序の柄は短く、その先に球形に複数の淡緑色の雌花がつく。雌蕊の柱頭は3裂する。花弁は先で4~5裂する。




アレチウリの花期は長く、夏から秋にかけて次々に咲く。 花は花粉や密が豊富なので、花粉を媒介するハチやアブ、チョウなどの他に、密を求めて様々な昆虫が集まり、何時も賑やかだ。




■果実
雌花が咲き終わると子房が膨らんで楕円体の果実が出来、これらが数個集まり、金平糖のように見える。表面には短い軟毛と長い刺が密生し、この刺が動物に付着し、これを遠方まで運ぶ。果実には楕円体の1cm程度の種子が入っている。アレチウリは一年草であり、繁殖方法は種子によるものに限定されているが、地中に落ちた種子は、翌年に発芽するものばかりでなく、2~3年後に発芽するものもある。アレチウリ一株全体では、種子の数は25,000個以上になる例もあり、これが旺盛な繁殖力の原因となっている。


■アレチウリと日本人
アレチウリの困った点は、旺盛な繁殖力で生態系を乱し、希少植物を駆逐することである。尚且つ、アレチウリ自体に人間に対する有用性がないことだ。日本のやや湿り気のある気候を好むアレチウリは、今や日本を桃源郷と思って栄えている。米国の乾燥した環境では、多分アレチウリは慎ましく振る舞っていたのだろう。一方、日本の在来種のクズも他の植物を覆い尽くすほどの蔓性植物だが、秋の七草の一つであり、根から良質の澱粉である葛粉が採れ、美しい花も観賞でき、功罪はあるものの日本の社会に溶け込んでいる。明治初期にクズを緑化や土壌流失防止用に米国に輸出したが、米国の南部地方で侵略的外来種として、"the vine that ate the South (南部を飲み込んだ蔓)"と呼ばれ、今や規制対象になっている。アメリカ人には、クズの美点は理解されず、侵略的外来種として認識されている。両者は、日本にとっても、米国にとっても、互いに残念な外来種の例となってしまった。落ち着いた自然環境に、新たな種を導入する際の予測できない影響の大きさや難しさを感じた。特に、納豆の原料の輸入大豆とともに流入したアレチウリには、納豆好きの日本人としては、なかなか素直に納得出来ない。