アメリカフウロ - 思い掛けず良い奴かも
アメリカフウロ(亜米利加風露)は、フウロソウ科フウロソウ属の雑草。文字通り、アメリカ渡来のフウロソウ仲間であることから名がついた。別名ロシソウ(鷺嘴草)とは,細長い果実をサギの嘴にたとえたもの。1932年に京都で発見されたらしいので、未だ帰化して100年も立たない新参者だが、現在では全国各地の道端などで自生し、良く見かける雑草になった。花期は春だが、秋まで五月雨式に開花する傾向があるので、季節感はない。姿形は、如何にもフウロソウらしい小さな薄いピンク(淡紅色)の可憐な花と、花の後にできる鋭くて長いツノを持ち赤い葉に包まれた黒い果実のコントラストが際立ち、あたかも天使と悪魔のような雰囲気を併せ持つ。温暖で栄養が豊富な畑地で雑草となると手に負えなくなるが、一方でアメリカフウロがジャガイモ青枯病に対する抗菌成分を持っているので、雑草を利用して作物の病害を防止できる例もある。新参の外来種雑草アメリカフウロは良いことろもあるようなので、もう少しつきあってみようか。

【基本情報】
・名称:アメリカフウロ(亜米利加風露)
・別名:ロシソウ(鷺嘴草)、英名は Carolina cranesbill, Carolina geranium
・学名:Geranium carolinianum
・分類:フウロソウ科 フウロソウ属の1年草または越年草
・原産地:北アメリカ
・分布:日本では1932年に京都で発見され、現在は全国各地の道端などで自生
・花言葉:だれか私に気づいてください
■生態
茎は基部からよく分岐して広がり、下方は倒れ、上方は直立して草高は数十cm程度になり、大きな株になって群生する。葉には長い葉柄があり、対生する。葉の形は人の手のひらのような形で5裂し、それぞれの裂片は更に深く裂ける。また、葉の縁が赤くなる傾向がある。




■花
葉腋から出た花柄の先に小さな花をつける。萼片は5枚で先端は細く尖る。花弁は5枚で、萼片よりやや短くて2つの萼片の中間位置にあるので重ならず、先端がややくぼむ。花弁の色は淡紅色が標準だが、個体により濃淡がある。雄蕊は10個、雌蕊は1本で柱頭は5裂する。雄蕊と雌蕊が近接しており、自家受粉する。アメリカフウロの繁殖方法は、種子によるもの以外に株分けや挿し木でも可能であり、強力な繁殖力を持つ。






■果実
花弁が落ちると、花の中央に緑色の直立した長いツノ状の果実が伸びる。果実は蒴果で、種子は基部の膨らんだ部分にある。熟すと先端が合着したまま5裂して心皮が巻き上がって、その勢いで種子を飛ばす。





■アメリカフウロと日本人
日本古来のフウロソウの仲間といえば、ゲンノショウコがある。これを原料とした胃腸薬は定評があり、現在でも生薬として利用されている。花も葉も切り込みが少なく、果実や葉の色もあまり目立たずマイルドな雰囲気があり、雑草ではあるが共生しているように思える。一方、アメリカフウロは、故郷北アメリカの平原や砂漠に生え、ネイティブ・アメリカンにとっては在来種でもあり、薬草して利用されてきた親しみのある植物だと思う。日本におけるゲンノショウコと、北アメリカにおけるアメリカフウロにおける人間と植物の関わり合いは同じなのかもしれない。それでは、日本に渡来したアメリカフウロの立場はどうなんだろうか。課題になるのは、旺盛な繁殖力で、他の植物の生存領域を奪うことだ。現状では、畑地や緑地では人手による選択的駆除しか方法がないようだ。ところが、琉球大学等では、"アメリカフウロ鋤込みが土壌化学性に及ぼす影響"の研究がなされ、ジャガイモやカンショに対して、病害防除効果ばかりでなく緑肥鋤込みと同様な効果もあることが示された。これは期待できる。アメリカフウロは思い掛けず良い奴かもしれない。散策中に小さな可憐な花や、どぎついエキゾチックな果実を見る度に、将来はどうなるのか考えてしまう。