ノウゼンカズラ - 夏に映える変わり者
ノウゼンカズラ(凌霄花)は、ノウゼンカズラ科ノウゼンカズラ属の落葉蔓性低木。1年で最も暑い時期に、大きな橙色の鮮やかな花を咲かせ、サルスベリとともに盛夏を代表する花だ。ノウゼンカズラは中国原産で、平安時代の延喜年間に、当初は薬用として渡来した。名の由来は、中国では"霄(そら)を凌(しの)ぐ花"の意で、高いところに這い登るので命名され、蔓性であることから和名では"カズラ"と読み替えられた。他のものに吸着する付着根(気根)を出して這い登る姿は、広がりと立体感を与え、花序は垂れ下がり、エキゾチックな花の造形もあって、やがて庭木として植栽されるようになった。園芸用に改良もされ、花色も豊富になった。花は一日花だが次々咲き、夏の間は花が絶えることはない。花の蜜の分泌は豊富で多くの昆虫が訪れるが、日本では結実するのは稀であり、その原因も定かでない。不思議な植物でもある。

【基本情報】
・名称:ノウゼンカズラ(凌霄花)
・別名:古名:ノウセウ(陵苕)、中国名:シキ(紫葳)、英名:Chinese trumpet vine, Chinese trumpet creeper
・学名:Campsis grandiflora
・分類:ノウゼンカズラ科 ノウゼンカズラ属の落葉蔓性低木
・原産地:中国
・分布:日本では、東北地方以南で植栽
・花言葉:名声、名誉、栄光
■生態
太い幹の樹皮は灰褐色で縦に薄く剥がれ、若い枝は褐色で皮目がある。樹勢は強く、蔓性の枝の所々に付着根(木質の気根)があり、これを使って他の植物や壁などに吸着し絡みつきながら、蔓を伸ばしていく。葉は奇数羽状複葉で対生し、小葉は数対つき、形は楕円形で先が尖り、葉縁には粗い鋸歯がある。





■花
花期は盛夏。枝先から円錐花序ができ、橙色の花を対生し、花房は垂れ下がる。花の構造は、萼は5裂し、花冠は基部は筒型でその先はラッパ型で5裂し平開する。開花直後は雄蕊や雌蕊は花冠に貼り付いているが、やがて離れて中央部に並ぶ。雄蕊は長いものが2本と短いものが2本の計4本で、葯はそれぞれ2個に分かれる。萼や花冠は5裂するのに、雄蕊が4本なのは変わり者だ。雌蕊は1本で、その先端は舌状に2裂する。花は朝開いて夕方に閉じる一日花だが、次から次に花が咲くので、花期は長く続く。また、花には蜜が豊富で、それを目的に昆虫や鳥が集まってくる。その蜜にはラパコールという成分が含まれており、弱い毒性があり、触ると肌がかぶれたり、目に入ると炎症を起こす可能性がある。かつてはこの毒性が誇張して伝わり、失明に至るとの毒迷信があった。










■花色と近縁種
身近で観賞できるノウゼンカズラを花色で分類した。最も標準的なものは、花の周辺部は橙色、中心部が黄色のもの。次に多いのは、中心部も含め花全体の赤味が強いもの。そして、稀に花冠全体が黄色いものもある。ノウゼンカズラが渡来してから既に1000年、園芸種としての発展があったのだろう。他に注目すべきは、北アメリカ原産で同属のアメリカノウゼンカズラだ。ノウゼンカズラと較べると、花筒が長く、赤みが強い花を咲かせる。植物園では本物が観賞できるが、近所の庭でもそれらしいものはあり、ノウゼンカズラの世界は拡がっているようだが、複雑でもある。




■果実
日本ではノウゼンカズラには果実はできないと言われている。ハチ類は確かにノウゼンカズラの花を訪れているのにも関わらず。ネット記事では豆状の果実がなったとの報告も稀にある。日本のノウゼンカズラの植物的な特性のためか、それとも生育環境のためかも、現状では解明されていない。実際には、ノウゼンカズラの繁殖は株分けや挿し木で行われている。

■ノウゼンカズラと日本人
かつては花や樹皮は漢方薬として利用されたこともあったが、現在の日本では盛夏を彩る庭木として独特の存在感がある。それは蔓性で繁殖力が強く自然に任せると生育領域を拡げ、こんもりとした緑の塊まりの中から橙色の大きな花をつけた幾筋もの房が垂れ下がる姿が、侵略的な外来種を彷彿とさせ、厄介で手間のかかる庭木だからだ。日本では結実するのは稀である現象は、この植物に内在するかもしれない素性の知れない不思議さを感じさせる。それでも日本人は、夏の美しい花を見たいがために、この変わり者のノウゼンカズラとのお付き合いを続けている。


