ゴンズイ - 見事な赤と黒のコントラスト
ゴンズイ(権萃)は、ミツバウツギ科ミツバウツギ属の落葉小高木。日本の在来種で、関東以西に自生。名称の由来ははっきりしない。本種の材質が脆くて役立たないところが、有毒で食用にもならない海水魚ゴンズイと同じだとか、幹の木肌が魚のゴンズイの縞模様に似ているとか、ミカン科の植物であるゴシュユ(呉茱萸)に似ていることから誤用された…等々。しかし、名称は既に記号化されており、ゴンズイと言えば、樹形や花は地味だが、秋に実る真っ赤な果実と、熟すと裂けて現れる黒い種子の姿を思い浮かべる。花言葉の"一芸に秀でる"は美しい果実を称賛したものらしい。また、葉をちぎると独特の香りがするが、それが青い果実のクサギ(臭木)に対して、ゴンズイは種子が黒いのでクロクサギ(黒臭木)なる別名を持つ。若い葉は艶があり柔らかいので食用にはなり、中国では腹痛や下痢止めの薬としたり、建材に向かない木はキクラゲ栽培の原木には使える…、結局現代社会においては、たいしてゴンズイは役に立たない。ゴンズイの唯一の存在価値は秋の果実の美しさである。ここでは、地味な小さな花は、鑑賞に値する赤い果実への変身の様子を中心に見ていきたい。

【基本情報】
・名称:ゴンズイ(権萃)
・別名:クロクサギ(黒臭木)、キツネノチャブクロ(狐茶袋)、クロハゼ(黒櫨)、中国名は野鴉椿
・学名:Euscaphis japonica
・分類:ミツバウツギ科 ミツバウツギ属の落葉小高木
・原産地:日本の固有種
・分布:関東地方以西の本州、四国、九州及び南西諸島
・花言葉:一芸に秀でる
■生態
低地から丘陵地の陽当りの良い林縁に自生し、樹高は数m程度で、樹形は枝が不規則に伸びるのでまとまりはない。樹皮は灰緑色で、白褐色の皮目が縦縞状に見える。この模様が、魚のゴンズイに縞模様を連想させる。葉は小葉が奇数枚集まって羽根状になる奇数羽状複葉。小葉は細長い卵形で先端は尖り、縁はまばらに小鋸歯がある。複葉は長い葉柄を介して茎に対生する。落葉樹なので、秋にまだ葉緑素の色素が残っている間は紫がかった色になり、やがて紅葉し、落葉する。



■花
本年枝の先に円錐花序を出し、黄緑色の小さな蕾を多数つける、やがて開花するが、花弁は充分に開かないので目立たない。花は両性花で、楕円形の萼片は5枚、その内側にずれて重なるように楕円形の花弁が5枚ある。雄蕊は5本でその先に葯があり、雌蕊は1本でその柱頭は雄蕊と同じ位の長さで花弁の外には出ない。雌蕊の奥に子房があり、その心皮は3つに分かれている。





■果実
花が終わると、半月形の若い黄緑色の果実が出来る。1つの花から1~3個出来るが、これは子房の心皮が裂けて出来たものだ。果実は袋果で、熟すにつれ赤くなる。果実の基部から先端に筋があり、これが裂けると1~3個の黒い球形の種子が顔を出す。この光沢の種子ある黒さと、裂けた肉質の果実の鮮紅色の対比は目もあやに美しい。秋になるとゴンズイの枝先には、これらが幾つも並び、壮観だ。







■冬のゴンズイ
冬になると果実の皮は干涸らび、種子も次第に落ちていく。種子は硬いが、野鳥の餌になることもある。また、ゴンズイは冬は休眠状態に入り、冬芽をつける。枝の先端に、通常2つ冬芽がつく。


■ゴンズイと日本人
ゴンズイの唯一の美点は、秋の果実と種子が演出する景色であろう。これは確かに美しいのだが、調和の取れた馴染み易いものでは無く、肉質の赤い果実の皮と硬く黒い種子が創り出すコントラストが原始的で艶めかしく、現代アートの作品を見ているような気分にさせてくれる。当方が初めてゴンズイを発見したのは、団地の緑道を散策中に、この風景に出くわして驚愕してからだ。普通の日本人も、この見事な景色を称賛するだろうけど、少し非日常的なものを感じているのではないか。どうも、その距離感がゴンズイの存在感を高めているような気がする。


