イヌホオズキ - 日米共生時代
イヌホオズキ(犬酸漿)は、ナス科ナス属の1年草。地球の熱帯から温帯に繁茂する雑草で、日本でも各地で自生している。名の由来は、ナス科ホオズキ属の赤い実のなるホオズキに姿が似ているが果実は黒いので、"似て非なるもの"の意味で、イヌホオズキとなった。夏になると、野菜のナスのような花を咲かせる。植えた覚えはないと思いつつも期待していると、小さな黒い実しか出来ず、自分の不覚さに気がつく。バカナスの別名を身を以て検証した。しかもイヌホオズキは、ナス科の植物に多いソラニンを含む有毒植物である。小さな白い花と鈴なりの黒い果実の組み合わせは絵にはなるけど、厄介な雑草に違いない。イヌホオズキは日本の在来種と言ってよいが、戦後の1951年に兵庫県で、近縁種のアメリカイヌホオズキの渡来が確認された。両者とも姿は瓜二つで、一見すると見分け難い。散歩に出かけると、最近では後者を見かける機会が多いような気がする。日本では、イヌホオズキ一族が大いに繁栄している。

【基本情報】
・名称:イヌホオズキ(犬酸漿)
・別名:バカナス(馬鹿茄子)
・学名:Solanum nigrum
・分類:ナス科 ナス属の1年草
・原産地:世界の温帯から熱帯にかけて分布
・分布:日本には稲作とともに渡来した史前帰化植物で、現在は日本各地で自生
・花言葉:嘘つき、嘘、真実
■生態
荒れ地や畑、道端、民家の庭先のみならず、コンクリートの壁の隙間からでも生える程、繁殖力は強い。茎は直立、または斜めに伸び、枝分かれして拡がり、草高は数十cmになる。葉は卵形で,葉縁はなめらかか僅かに鋸歯を持つ。葉はやや厚めで濃緑色。葉の基部はくさび形で、翼のある葉柄へとつながる。茎に対して葉は互生する。



■花
花期は長く、初夏から秋まで。茎の節と節の途中から花序を出し、その基部が少し伸びて花柄が重ならずに総状に順番に4~10個の花をつける。萼は浅く5裂し、白色の花冠は星形に平開して5裂するが、基部まで切れ込まないので、花弁相当部分の幅は広い。雄蕊は5本で黄色い葯が目立ち、雌蕊は1本で花柱が少し飛び出す。構造は野菜のナスと同様だ。



■果実
花後には果実が出来る。はじめは黄緑色で小さく上か横を向いているが、成長すると重みで下に垂れる。未熟なうちは果実の表面は緑色で光沢は殆どなく、熟して黒くなっても光沢がないのが、イヌホオズキの特徴だ。また、当然のことながら、花柄と同様に果柄も分散して総状につく。果実内部は濃紫色で、20~50個ほどの種子が入っている。冬には黒く熟した果実は、枝葉が枯れても残る。熟した果実は、鳥や小動物が食べて種子が消化されずに排泄され、別の場所に運ばれるか、または果実が地面に落ち周辺に広がる。1年草なので種子がたどり着いた場所で、次の年に発芽する。


■近縁種 アメリカイヌホオズキ
古来からの在来種であるイヌホオズキと、昭和の新参者のアメリカイヌホオズキは分類学上も同属で良く似ているが、区別が出来る点が幾つかある。分かり易いものから列挙すると、
・花のつき方は、イヌホオズキは花柄は少しずつずれてつき、アメリカイヌホオズキは花柄は1点から分かれて房のようにつく
・果実の色は、イヌホオズキは光沢がなく、アメリカイヌホオズキは光沢がある
・花序あたりの花の数は、イヌホオズキは4~10個、アメリカイヌホオズキは1~4程度
・果実の中に、イヌホオズキは種子のみ、アメリカイヌホオズキは種子と小さな球状顆粒がある
・花色は、イヌホオズキは白または淡い紫、アメリカイヌホオズキは淡い紫が多い
・花の形で花冠が基部まで切れ込みは、イヌホオズキは浅く(太く見える)、アメリカイヌホオズキは深い(細く見える)
・葉の形は、イヌホオズキは丸く、アメリカイヌホオズキは細い
構造や数値の異なるものは分かりやすいが、アナログ的な比較も含まれているので、結構難しい。





■イヌホオズキと日本人
イヌホオズキは在来種だが、有害な雑草なので人間にとっては利用価値が無く、特徴のある花や果実が季節感を感じさせるだけの存在だ。ところが、ここ数十年の間に、海外からイヌホオズキの近縁種が続々と渡来している。北米からのアメリカイヌホオズキをはじめ、南米からのオオイヌホオズキ、北米からのダグラスイヌホオズキ、南米からのムラサキイヌホオズキ、そして台湾や北米をルーツとするテリミノイヌホオズキ、など。日本の自然環境に適用し、生息領域も拡がっている。近縁種であれば交雑する可能性もある。そのうち同定不能なイヌホオズキ類が出現するかもしれない。イヌホオズキは希少植物ではないので、危機的な状況にはならないと思うが、イヌホオズキの世界でも新たな進化論が始まっているのではないかと注目している。