ママコノシリヌグイ - 名は体を表す

 ママコノシリヌグイ(継子の尻拭い)は、タデ科イヌタデ属の蔓性1年草。東アジアに分布する雑草。名の由来は、憎い継子の尻をこの刺だらけの草で拭くという発想から来ている。韓国では"嫁の尻拭き草"、中国では刺蓼と呼ばれているので、本種と鋭い棘は、切っても切れない関係にあるようだ。北海道から沖縄まで全国のやや湿り気のある林縁や道端などに自生する。花期は長く、春から秋まで、蔓性の枝の先に幾つかの蕾、花、果実をつけ、これらが入り乱れて存在する。白い花の先端は桃色がかり、これらが集まった頭状果序はまるでお菓子の金平糖のよう。この様子は、同属のミゾソバにそっくり(記事参照)。だが、性格は異なる。ミゾソバは小川や沼の周辺で一面に群生するのに対し、ママコノシリヌグイは蔓性であり鋭い棘で他の植物に絡みながら繁茂する。このママコノシリヌグイの攻撃的な性格は、同属のイシミカワに似ている(記事参照)。しかし、イシミカワの頭状果序は金平糖ではなく、宝石のブローチのようでもある。身近に存在するイヌタデ属三兄弟の中では、ママコノシリヌグイは残念なことに一番の貧乏籤を引いてしまったようだ。

ママコノシリヌグイの花 (‎‎‎2023‎年‎10‎月‎18‎日 所沢市)

【基本情報】
 ・名称:ママコノシリヌグイ(継子の尻拭い)
 ・別名:トゲソバ(棘蕎麦)、漢名は刺蓼(シリョウ)
 ・学名:Persicaria senticosa
 ・分類:タデ科 イヌタデ属の蔓性1年草
 ・原産地:日本を含む東アジア
 ・分布:日本では全国各地
 ・花言葉:見かけによらぬ

■生態
 茎は横方向にも斜め上にも伸び、蔓性の枝は分岐しなから他の植物に絡みついて成長し、蔓の長さは2m程度にもなる。太い茎の断面は四角形で赤味を帯びている。葉は三角形で長い葉柄があり、茎に対して互生し、丸い托葉が茎を囲む。下向きの鋭い刺(逆刺)は茎、葉柄、葉の裏の葉脈や周囲にもあり、一旦絡みついたら離れない。

ママコノシリヌグイの群生 (‎2024‎年‎6‎月‎8‎日 所沢市)

茎、葉柄、葉脈に下向きの鋭い刺がつく (‎2024‎年‎6‎月‎8‎日 所沢市)

葉は三角形で互生し、茎を托葉が囲む (‎‎2024‎年‎8‎月‎27‎日 所沢市)

■花
 春から秋までの長い期間に、次々に枝が伸び、新しい花を咲かせる。枝先に数個から10個程度の頭状花序をつけるが、花の色は基部は白、先端が桃色のグラデーションとなり、良く目立つ。花の構造は、タデ科の植物らしく花弁は無く、花被に相当するのは萼のみで深く5裂する。そして、雄蕊は8本あり先端に葯がつき、雌蕊は1本で花柱は基部から3裂する。花の開口部は、ミゾソバと比較しても狭く、ハチのような大きさの昆虫による花粉の授受は可能なのであろうか? 観察中には、カメムシやアリなどを見かけたが、これらが媒介しているのだろうか、それとも、両性花でもあるので花の中で自家受粉するのだろうか、もしかしたら、ミゾソバのように茎の何処かに閉鎖花をつくっているのだろうか。小さな花を見ていると、妄想が拡がっていく。

開花前の蕾は金平糖のよう (2023‎年‎10‎月‎18‎日 所沢市)

花の構造 (‎2023‎年‎10‎月‎18‎日 所沢市)

開花しても、花被(萼)はあまり広がらない (‎2024‎年‎6‎月‎8‎日 所沢市)

花とハリカメムシ (‎2023‎年‎10‎月‎18‎日 所沢市)

花とアリ (‎‎2024‎年‎6‎月‎8‎日 所沢市)

花の色は白味の強いものもある (‎‎‎2001‎年‎9‎月‎16‎日 所沢市)

■果実
 花が終わると、萼は残り宿存萼となって生育する果実を包む。この姿は、花が咲く前の蕾とそっくりで区別がし難い。よく観察すると、蕾の場合は先端部が重なり合っているが、宿存萼の場合は先端に隙間ができて黒い果実が少し顔を出している。この果実は痩果で、球形に近い3稜形で光沢がなく黒い。宿存萼が枯れると落下する。

果実は宿存萼の中で成長する (‎‎‎2024‎年‎8‎月‎27‎日 所沢市)

■ママコノシリヌグイと日本人
 ママコノシリヌグイは、人にとって何の役にも立たない雑草であるが、茎や葉柄を覆う鋭い棘の印象が強くて、ブラックユーモアの効いた名称には納得できる。日本人は、ママコノシリヌグイの本質を刺と考えたのだ。タデ科イヌタデ属の中には、ミゾソバやイシミカワもある。これらは花弁が無く、宿存萼が存在し、小さな花で繁殖が出来るのか…等々、種としての共通点もある。しかし、ママコノシリヌグイは刺、ミゾソバは金平糖のような蕾、イシミカワは変幻自在の宿存萼がそれぞれの存在を特徴づけている。実際に、花や葉の形状、刺の程度、生育環境を調べれば、これらの区別は容易で、似ていても別の植物だ。これらに似て非なる植物は生物多様性の賜物であり、自然の奥深さを感じさせる。結論としては、鋭い刺を持つママコノシリヌグイは日本人の感性や洒落によって酷い名前を貰ったが、今後も決して忘れられない存在に昇華したと言うことだろう。