ヨウシュヤマゴボウ - あくどく危険な異邦人
ヨウシュヤマゴボウ(洋種山牛蒡)は、ナデシコ目ヤマゴボウ科の多年草。北アメリカ原産で、明治初期に帰化し、現在国内では、道端や市街地などで野生化して、よく目にする雑草となっている。ところが、ヨウシュヤマゴボウは根、葉、果実、種子も含め、全草にわたり有毒で、アルカロイド、サポニン、アグリコンなどの有毒成分を含み、誤食すると腹痛、嘔吐、下痢の症状が出て、けいれんを起こして死に至ることもある。この危険な雑草の駆除は行われてきたが、肥大したゴボウを連想させる根を取り除くのは難しいので、毎年何事もなかったように繁殖する。この頑固な根が、ヤマゴボウの名の由来でもある。初夏から秋の花期を迎えると、緑一色だった株は、白い花、緑から紫、黒へと変化する果実、赤味がかった茎など、日本の植物ににはないポップな色調は特別だ。流石は外来種。ヨーロッパでは、 庭のアクセントとして、 栽培されているとも聞く。蓼食う虫も好き好きだ。

【基本情報】
・名称:ヨウシュヤマゴボウ(洋種山牛蒡)
・別名:アメリカヤマゴボウ(亜米利加山牛蒡)、 米国ではポークウィード(Pokeweed)、インクベリー(Inkberry)
・学名:Phytolacca americana
・分類:ナデシコ目 ヤマゴボウ科 ヤマゴボウ属の多年草
・原産地:北アメリカ
・分布:日本では、明治初期以降に帰化し、各地で繁茂
・花言葉:野生、元気、内縁の妻
■生態
多年生の草本で、高さは2mにもなる。根は太く長い。茎は直立して伸びるが、やがて盛んに枝分かれして、こんもりと繁る。葉は大きな長楕円形で両端は尖り、茎に互生し、無毛で柔らかく、秋になると紅葉する。根から出る茎は、草本としては太く、果実が出来る頃には赤紫色になる。繁殖は種子でも根茎でも可能で、毎年新しい株をつくる。





■花
新緑の頃、葉の脇から緑色をした蕾の穂を出す。夏になると房状の白味を帯びた花序が出来、 下の方から開花を始める。花序の茎から、長い花柄を介して白色から薄紅色の花がつく。花の構造は、花弁は無く、花弁のように見える萼が5枚、雄蕊10本、子房は分割され心皮が10個ある。子房が果実になると、心皮に対応して10個の種子が出来る。花は両性花で、ツチバチなどの昆虫が花粉を運ぶ。






■果実
花後には、花序に扁平な果実が出来、その重みで果序は次第に垂れ下がる。緑色の未熟な果実が出来始めると、茎も次第に薄紫色になる。茎の基部の方から果実の成熟が進み、紫色の果実が増えてくる。やがて果実が熟すと黒くなり、最終的には全ての果実が黒くなる。晩秋には、果実が落ちて赤紫になった果茎が残る場合もあるし、果実は残っても萎れながら冬の寒さに耐えるものもある。果実は液果で、その中には赤紫の汁と、小さな扁平した種子が入っているが、これらは有毒で人が触れると肌がかぶれる。しかし、メジロなどの鳥類は果実を好み、種子はあちこちに運ばれ散布される。また、この赤紫色の果汁は強い染料にもなり、インクベリー(Inkberry)とも呼ばれてインクの代用にされたこともあった。






■ヨウシュヤマゴボウと日本人
ヨウシュヤマゴボウは、外来種のなかでは明治初期からの新参者であるにも関わらず、我が物顔で繁茂している。ここ数年、所沢ではナラ枯れ対策のためにコナラを伐採しているが、空き地ができると、早速ヨウシュヤマゴボウの若い株が吹き出す。夏になり、花が咲き、果実が稔り始めると、様子は一変。白、緑、紫、黒の球体や、鮮やかな赤い茎が入り乱れ、ポップなアメリカン・カルチャーの世界に紛れ込んだよう。この派手すぎる色調は、日本の在来種のものとは別世界だ。しかも有毒でもあり、危険な植物でもある。このことは、植物好きの数寄者なら、典型的な雑草でもあるので、性質は良く知っている。その上で、ヨウシュヤマゴボウは、あくどく危険な異邦人の人格を持ち、その存在は許容しているところがある。ところで、山菜の漬物として"山ごぼう"があるが、これはキク科の植物の根を原料にしたもので、有毒のヤマゴボウではない。日本人はヤマゴボウに関して少し寛容なのかもしれない。