イシミカワ - 萼の変容

 イシミカワ(石見川、石実皮、石膠)は、タデ科イヌタデ属の蔓性の一年草。イシミカワの名称は、薬草として良質なものが取れた石見川(大阪府河内長野市)の地名に由来するとか、石膠(いしにかわ)が訛なまったものとか諸説があるが、名から植物の姿を想像するのは難しい。東アジアに自生し、日本の在来種でもある。植木で仕切られた陽当りの良い垣根を覆うように、蔓を伸ばす風景に良く遭遇する。茎と葉柄には多数の下向きの鋭い刺(逆刺)が生え、一度掴んだものは放さず、ひたすら蔓は前進する。夏から秋にかけて、短い花序に小さな白い花が多数つくが、開花しても半開きのままで存在感はない。しかも花弁はなく、花を覆うのは萼のみ。花が終わると萼が閉じ、その中で果実が生育する。この過程で萼の色が虹の色のように変化し、まるで宝石のよう。つい手を出して触ろうとすると、あの強力な刺に触れ、我に返る。美しいものは遠くから眺めるものだ。

果実を包み色づく萼 (‎2022‎年‎10‎月‎30‎日 所沢市)

【基本情報】
 ・名称:イシミカワ(石見川、石実皮、石膠)
 ・別名:漢名は杠板帰(コウバンキ)
 ・学名:Persicaria perfoliate
 ・分類:タデ科 イヌタデ属の蔓性の一年草
 ・原産地:東アジア、日本の在来種
 ・分布:日本では、全国の陽当りが良くやや湿り気のある土地
 ・花言葉:気まぐれ、正体不明、謎に包まれている

■生態
 根元から伸びた蔓状の茎は盛んに枝分かれし、全長は1〜3mになる。葉は長い花柄を持ち、形は基部近くが盾状の三角形。更に、苞葉は円形で茎を囲んでいるので、茎が突き抜けたように見える。茎や葉柄には、鋭い下向きの刺(逆刺)があり、他の植物に絡みついたときに、滑り止めの役割を果たす。イシミカワの生息地は、他の蔓性植物の生息地でもあるので、雑草同士の勢力争いが繰り広げられている。

若い株 (2023‎年‎7‎月‎24‎日 帯広市)

葉は三角で互生し、円い苞葉の先に短い穂のように花をつける (2023‎年‎7‎月‎24‎日 帯広市)

茎と葉柄には下向きの鋭い刺がある (‎2022‎年‎9‎月‎25‎日 所沢市)

他の蔓性植物アレチウリとも競合し蔓を伸ばす (2022‎年‎9‎月‎7‎日 所沢市)

■花
 夏になると、分枝した茎の先に円い苞葉を介して短い総状花序が出来、その中に小さな多数の花がつく。花には萼はあるが花弁はない。花は半開きにしか咲かないので、花の存在に気がつかない程だ。花の構造は、萼が5枚、雄蕊は8本、雌蕊の花柱は3個ある。随分小さな花なので、花粉の授受はどのような昆虫がやっているのだろうか。残念ながら、その現場には立ち合うことは出来なかった。 もしかしたら、自家受粉するのだろうか。花後に再び萼は閉じて残り多肉質の宿存萼となり、その中で子房が発達し果実になる。やがて宿存萼は、薄緑、桃色、赤紫、青紫、青色へと変化する。夏から初秋の花の時期には、蔓も成長を続けているので、それぞれの花序の生育状態も異なるので、蕾、花、様々な色の宿存萼が観賞できる。晩秋になると、宿存萼は青くなり、葉は黄葉する。

円い苞葉を台座にして蕾ができる (2022‎年‎9‎月‎7‎日 所沢市)

萼に包まれた花は半開きのまま (2014‎年‎8‎月108‎日 帯広市)

花には萼が5枚、雄蕊は8本、雌蕊の花柱は3個ある (2020‎年‎8‎月‎8‎日 所沢市)

花後に再び萼は閉じて宿存萼となり、その中で子房が発達し果実になる (‎2011‎年‎11‎月‎26‎日 所沢市)

宿存萼は、薄緑、桃色、赤紫、青紫、青色へと変化する (‎‎2022‎年‎10‎月‎30‎日 所沢市)

同上 (‎‎2022‎年‎10‎月‎30‎日 所沢市)

枝先の花序の生育状態は様々 (‎‎2022‎年‎10‎月‎30‎日 所沢市)

晩秋には宿存萼は青くなり、葉は黄葉する (‎‎2011‎年‎11‎月‎26‎日 所沢市)

■イシミカワと日本人
 イシミカワは純然たる雑草ではあるが、柳田國男は、東北地方では河童が接骨薬として使用する植物として紹介したり、南方熊楠が、その薬効や名前の由来についての考察を残しているので、日本人にとって関心ある植物だったようだ。懐疑心の強い現代人も、イシミカワには大変興味がある。それは謎が多いためだ。萼が何故、花の生成から種子散布まで重要な役割を果たしているのか、萼に囲まれた小さな半開の花は昆虫に依る他家受粉なのかそれとも自家受粉なのか、そして、イシミカワの名称(石実皮、石膠)は宿存萼とどのように関係するのか、等々。これらの現象は、他の植物とは異なるイシミカワ特有の萼の性質に起因するものではないかと思えてくる。雑草であるイシミカワの美しさは格別だが、これも萼の変容を人々がを楽しんでいるだけのように思えてくる。つまるところ、イシミカワの核心は萼だと思う。