ヤブミョウガ - 凛々しい雑草

 ヤブミョウガ(薮茗荷)は、ツユクサ科ヤブミョウガ属の多年草。日本の在来種で、関東地方以西のやや湿った林に自生する。薮に生え、野菜のミョウガ(ショウガ科)と葉の雰囲気が似ているのでヤブミョウガと命名されたが、全く別の種類。ヤブミョウガの見処は、株が成長しても、花茎につく蕾や花、果実がほぼ同じ球形のままの姿で、少しずつ時間をずらしながら、微妙に変形し色も移りゆく様だ。日陰に強く"和の風情"があるので、観賞用に庭に植えられることもある。人間とは親和性の高い植物のには違いないが、木々の繁る林の中で見かけるヤブミョウガの群生は、横に長く這う地下茎による栄養繁殖と種子からの繁殖も可能で、湿気や温度などの条件次第で何時でも勢力を伸ばすことが出来る雑草だ。清楚な美しさと、雑草の強かさを併せ持つヤブミョウガは、どのような植物だろうか。

ヤブミョウガの果実 (2008‎年‎10‎月‎13‎日 所沢市)

【基本情報】
 ・名称:ヤブミョウガ(薮茗荷)
 ・別名:ヤブショウガ(藪生姜)、トジャク(杜若)
 ・学名:Pollia japonica
 ・分類:ツユクサ科 ヤブミョウガ属の多年草
 ・原産地:東アジア(日本、中国、台湾、朝鮮など)
 ・分布:日本では、関東地方以西の本州、四国、九州
 ・花言葉:報われない努力、苦しみを和らげる、謙譲の美徳

■生態
 長い地下茎が拡がり、そこから茎が直立する。葉は茎を包むように互生し、茎の上部は葉が小さく少なくなり、花序が目立つようになる。茎の先端から下方へ数段にわたり花序が形成され、円錐状の輪郭の中に、離散的に花や果実が並び、寺院の多重の塔のようにも見える。雌雄同株で、花には両性花と雄花があるが、咲いているのは1日だけの"一日花"。果実は茎の中心に近い程、また、茎の上方より下方にある程、ゆっくりと順番に成熟していく。花序の中はタイミングをずらしながら変化するので、蕾や花、果実が混在する時期がある。成熟した果実の中には種子ができる。

ヤブミョウガの群生 (2022‎年‎8‎月‎22‎日 所沢市)

ミョウガに似た葉は茎に互生する (2019‎年‎7‎月‎20‎日 所沢市)

成長した株には円錐を描くように数段の花序がつく (2023‎年‎8‎月‎2‎日 所沢市)

■花
 夏から秋にかけて花茎が伸び、その上部に小さな白い蕾が段々につく。やがて、徐々に花が咲いていくが、花の命は短く1日で萎む。花には両性花と雄花の2種類がある。両性花は花弁が6枚あるように見えるが、外側の3枚の丸くて大きいのが萼(外花被片)、内側の3枚の少し細長いものが本当の花弁(内花被片)。中央には子房があり、そこから長い雌蕊が伸びる。黄色い葯がついた雄蕊が6本あるが、これらは雌蕊より短い。雄花には子房はなく、雌蕊はあるものの、雄蕊の半分程度の長さで、柱頭もなく機能していない。ヤブミョウガは雌雄同株なので、花茎の中で両性花と雄花は混在する。

茎に先端の花序に咲いた花 (‎2007‎年‎7‎月‎16‎日 所沢市)

両性花の構造 (2010‎年9‎月1‎2‎日 所沢市)

雄花の構造 (2022年8‎月2‎2‎日 所沢市)

両性花 (‎2010‎年‎9‎月‎12‎日 所沢市)

雄花 (‎2020‎年‎7‎月‎26‎日 所沢市)

■果実
 花後には果実が出来る。最初は、果実は白く、まだ萼に包まれ、花柱が残る。果実は次第に緑色に変化し、花柱は落ちる。果実は熟すにつれ青紫色になり、囲っていた萼は落ちる。実も花と同じように茎に近い方から次々に熟していく。熟した果実は黒味を帯びる。果実の球面に沿って、不定形の種子が入っている。秋が深まると、葉は黄葉するが実は残る。

花後に出来た若い白い果実には花柱が残る (‎2023‎年‎9‎月‎26‎日 所沢市)

果実は白から緑に変化するが、萼はまだ残る (‎2008‎年‎9‎月‎27‎日 所沢市)

果実は熟すと次第に青紫色になる (2006‎年‎10‎月‎22‎日 所沢市)

果実は茎に近い方から熟し、濃い青紫色になる (2022‎年‎8‎月‎22‎日 所沢市)

熟した果実は黒味を帯びる (‎2023‎年‎9‎月‎26‎日 所沢市)

葉は黄葉しても果実は残る (‎2012‎年‎11‎月‎10‎日 所沢市)

■ヤブミョウガと日本人
 ヤブミョウガの由来は悲惨だ。茗荷の葉に似ていて、薮に生えているからとなると、名から実体を想像するのは困難だ。ヤブショウガ(藪生姜)なる別名もあるが、これも同じ発想だ。更に悪いことに、現代では殆ど食用にされることもなく、薬効もないので、実用的には役立たずだ。ヤブミョウガは個性の無い植物なのだろうか。いや、そうではない。ヤブミョウガには、夏から初冬にかけて直立する茎の先の花序を舞台に、白く小さな蕾や、華奢で清楚な白い花、熟すにつれ色が変わりゆく果実が寄り集まり、調和的な美を創り出している。暗い林の中でヤブミョウガに遭遇すると、凛々しいと思う。しかし、他に良い点は思いつかない。現状は、人間の審美心と、自然にコントロールされたヤブミョウガの繁殖力が、平衡した状態にあるのだと思う。

林の中のヤブミョウガ (‎2002‎年‎7‎月‎19‎日 神代植物公園)