クズ – 旺盛な繁殖力の先は?

 クズ(葛󠄀)は、マメ科クズ属の蔓性の多年草だが、フジのような蔓性の木のイメージに近い。日本の在来種で、全国各地の山野や土手、道端などで、他の植物に覆いかぶさったり、地面を包み隠すように繁茂する。米国には明治初期に輸出され、緑化や土壌流出対策用として重宝されたが、現在は旺盛な繁殖力が過ぎてグリーンスネークと呼ばれ、侵略的外来種として駆除が続けられている。しかし、日本ではそれほど嫌われていない。なぜなら、クズの根から上質な澱粉を取り出し、和菓子や料理に使う。また、薬用として、根は生薬葛根として解熱に、花は生薬葛花として二日酔いに、生の葉は止血に使う。丈夫な蔓は、籠などの生活用品ばかりでなく、煮て発酵させて繊維を取り出し葛布と言う布が作られていた(現在でも静岡県掛川市の特産品)。また、かつては草食動物の飼料として利用され、別名ウマノオコワやウマノボタモチの由来になっている。クズは緑のモンスターの圧倒的なパワーを感じさせるが、一方で実は秋の七草の一つで、夏から秋にかけて赤紫色の花が咲く。緑の葉の塊の中に点在する花はあまり目立たないのだが、近くで見るとなかなか華やかな風情だ。様々な顔を持つクズの正体とは?

クズの蔓に繋がる花と葉 (2022‎年‎9‎月‎16‎日 所沢市)

【基本情報】
 ・名称:クズ(葛󠄀)
 ・別名:マクズ(真葛)、クズカズラ(葛蔓)、ウラミグサ(裏見草)、ウマノオコワ、ウマノボタモチ、など
 ・学名:Pueraria lobata subsp. lobata
 ・分類:マメ科 クズ属の蔓性の多年草
 ・原産地:日本の在来種、海外では朝鮮、中国、台湾、フィリピン、インドネシア、ニューギニアなどで自生
 ・分布:日本国内では、北海道から沖縄まで各地で自生
 ・花言葉:芯の強さ、快活、活力、根気、努力、治癒

■生態
 地下のクズの根は大きく、長さ1.5m、径20cm程度にもなる。そこから蔓が伸びるが、古い基部は木質化し、若い蔓は全体に褐色の細かい毛が生え、周囲のものに巻きつくか地面を這って伸びる。葉は丸型で3枚の小葉が一組(三出複葉)になって、蔓に対しては長い葉柄で互生する。葉の裏面には細かな白毛があり、風に吹かれて裏面が見える様を"恨み(裏見)"に掛けて、別名のウラミグサ(裏見草)が生まれた。

樹木に覆い被さるクズ (2024‎年‎7‎月‎19‎日 所沢市)

蔓は褐色の毛が生え、周囲の物に巻きつく (2024‎年‎7‎月‎19‎日 所沢市)

葉は三出複葉 (2024‎年‎7‎月‎19‎日 所沢市)

■花
 夏から秋にかけ、葉腋から総状花序が立ち上がり、赤紫色の甘い芳香がする蝶形花を房状に密集してつける。花は花序の下から上に向かって部分的に開花するので、枯れた花、開花した花、蕾が同じ花序に存在する時期がある。

葉腋から総状花序が立ち上がる (2006‎年‎9‎月‎2‎日 所沢市)

花は花序の下から上に向かって部分的に咲く (‎2020‎年‎8‎月‎9‎日 所沢市)

 クズの花は、マメ科に共通な蝶形花で、花びらは5枚ある。花の正面に大きくて一番目立つ旗弁があり、その中央に黄色い蜜標と言う部分がある。旗弁の下方の左右に2枚の翼弁がある。翼弁に囲まれて2枚の竜骨弁(舟弁とも言う)があり、この中に10本の雄蕊と1本の雌蕊がある。昆虫が花粉を運ぶ際は、旗弁中央の蜜標を目指し、その奥にある蜜腺に探る。このとき、手足は翼弁を掴み、体は竜骨弁の雄蕊や雌蕊に触れる…ということらしい。また、花弁の色も濃淡があり、時々個性的な花に出会う。

花はマメ科特有の蝶形花 (2010‎年‎9‎月‎4‎日 所沢市)

咲き始めの花 (‎2011‎年‎7‎月‎23‎日 所沢市)

側面から見た花 (‎2010‎年‎10‎月‎10‎日 所沢市)

正面から見た花 (‎‎2006‎年‎9‎月‎2‎日 所沢市)

赤味の強い花 (‎2005‎年‎9‎月‎10‎日 東京都薬用植物園)

■果実
 花後に褐色の毛が生えた鞘状の実ができる扁平な果実ができる。これは莢果(きょうか)であり、豆果とも言う。その中に数個の豆のような種子が入っている。クズはこの種子のみならず、地下茎から生じる蔓によっても爆発的に増殖する。

花後に鞘状の果実(豆果)ができる (‎‎‎2022‎年‎10‎月‎31‎日 所沢市)

鞘は褐色の剛毛に覆われ、豆のような種子が数個入っている (‎‎‎2022‎年‎10‎月‎31‎日 所沢市)

■クズと日本人
 日本人は、有り余る繁殖能力を持つクズを、かつては集落が総動員で刈り取ったり、一部を加工して様々な用途で利用してきた。しかし、現代日本では、住宅の周辺にクズは草刈り機や除草剤で駆除し、荒れ地のクズは影響のない限り放置して、どうにかクズと人間は版図の平衡を保っているかのように思える。だが、クズの持つ膨大な植物資源を何とか活用出来ないものだろうか。そこで注目されているのは、クズの葉や蔓を原料としたバイオマスへの応用だ。既に宮崎大学や長浜バイオ大学で研究が進んでいるようだ。侵略的植物と人間の共存は、今後の普遍的な課題だが、クズがその先導役となるよう期待している。