アオツヅラフジ - 微妙な距離感
アオツヅラフジ(青葛藤)は、ツヅラフジ科アオツヅラフジ属の蔓性の落葉木本。雌雄異株で有毒植物。日本の在来種で、各地の山地や草原、道端に自生する雑木。アオツヅラフジのアオとは、茎や葉が緑色をしているところから、ツヅラフジは蔓が丈夫でツヅラ(籠)を編むのに利用したことに依る。別名のカミエビのカミとはぶどうの古名で、実がぶどうの房のようになるところに由来し、実の周りに白い粉がふくことからカビ(エビ)が生えたと思いつけられた。この2つの由来から、アオツヅラフジの特徴は、強い蔓と、美しい果実にあると言って良いだろう。ただ、アオツヅラフジは有毒植物でもあるので、殺虫剤にしたり、取り扱い注意のうえ蔓や根を木防已(モクボウイ)と称して漢方薬にもした。普段は目立たないアオツヅラフジは秋になると、俄然と存在感を増す。緑から紫へと変化する鈴なりの果実は小型のブドウのようで、つい手を出してしまいそうな衝動に駆られる。その度に美しいものには毒があると言う諺を思い出す。

【基本情報】
・名称:アオツヅラフジ(青葛藤)
・別名:カミエビ(神衣比)、チンチンカヅラ、ピンピンカヅラ 、黒葛(万葉集での表記)
・学名:Cocculus trilobus
・分類:キンポウゲ目 ツヅラフジ科 アオツヅラフジ属の蔓性落葉木本
・原産地:日本の在来種
・分布:日本全国(北海道から本州、四国、九州、沖縄)、海外では、朝鮮や台湾などにも分布
・花言葉:目立たない存在感
■生態
アオツヅラフジは蔓性の木本。他の植物に覆い被さるように枝分かれしながら右巻き(上から見て反時計回り)に蔓を伸ばす。今年出た枝は緑色だが、古くなると褐色になる。葉は互生し、全縁だが、形は広い卵型が基本で浅く3裂することもあるが、その程度は一定でなく、葉形からアオツヅラフジを特定するのは難しい。雌雄異株で円錐花序が出始めると、雌株か雄株かはっきりする。雄株の花序には雄花しかつかないが、雌株のそれには雌花とともに若い果実も混在する。雌株には鈴なりの果実ができるが、雌蕊の子房が6個の心皮に分かれ、それぞれが1個の果実をつくるためだ。





■花
夏になると、枝先と葉腋から円錐花序が出て、小さな黄白色の花を多数つける。短い花柄の先に萼が6枚つくが、外側に小さい萼片が3枚、内側に大きい萼片が3枚つき、正面から見ると重なり具合によっては小さい萼が隠れて3枚に見えることがある。萼の先に6枚の花弁があるが、萼より小さいので囲まれているように見える。花弁の先は2裂し、尖った印象を与える。花弁の先には、雌花の場合は雌蕊は1つだが子房が6個の心皮に分かれているので、6個の柱頭が見える。雄花の場合は、6個の雄蕊があり、先端の黄色い葯が目立つ。




■果実
秋になると、球状の果実がブドウのように房状になる。晩秋には、緑色から青く熟し、表面は粉を吹いたよう白味を帯び、つぶすと紫黒色の汁が出る。果実は核果で有毒。果実の中には、扁平で円くカタツムリの殻のような種子がある。果実が成熟する頃には、葉は黃葉し落ちる。冬になると蔓に残った果実は、次第に萎れていく。




■アオツヅラフジと日本人
アオツヅラフジは蔓性の荒々しく強い植物だ。人は決して自宅の庭に植えようとは思わない。他の植物や垣根、建物まで覆い尽くすからだ。しかし、野原や道端で自生しているアオツヅラフジを見つけると、丈夫な蔓を利用して、籠や背負いかごにしてしまう。アオツヅラフジから見ると、人間は搾取するだけの悪代官なのかもしれない。しかし、悪代官も人の子、秋の青い実に魅せられて、愛でる人も多いだろう。だが、アオツヅラフジは有毒でもあり、ちょっと厄介な存在。人間はアオツヅラフジを役に立つ奴と思いながらも、少し危険だけれど美しいと思いつつ長い間過ごしてきた。これからも、この距離感を保ちながら、両者は共存(と言ってよいか微妙だけど)し続けるのだろう。