ヘクソカズラ - 野趣溢れる雑草の鑑
ヘクソカズラ(屁糞葛)は、アカネ科ヘクソカズラ属の蔓性多年草で日本在来の雑草。夏には中心部が赤紫色の白い小花が、秋には光沢のある褐色の果実が鈴なりになる。美しい植物だが、酷い名前がついてしまった。これは、ヘクソカズラに含まれるメタンチオールという成分が原因で、草を傷つけると、おならや大便のような臭いがするため。中国では鶏屎藤、英語圏ではスカンクの蔓(Skunk vine)と呼ばれるのも納得。また、ヘクソカズラを食用とする昆虫は、体内にメタンチオールを蓄積し、外敵から身を守るようだ。しかし、果実や花を乾燥させると悪臭は消え、皮膚や下痢の薬になる。更に、果実をすり潰し薬品や香料で処理したものは、美肌保水料にもなる。文化的には、万葉集に屎葛(くそかずら、cf.現在では屁が加わり更に強烈!)として登場し、諺にも"屁糞葛も花盛り"(不器量な娘でも年頃になればそれなりに魅力がある)があり、馴染み深い雑草だ。

【基本情報】
・名称:ヘクソカズラ(屁糞葛)
・別名:ヤイトバナ(灸花)、サオトメカズラ(早乙女葛)、漢名:鶏屎藤、英名:Skunk vine(スカンクの蔓)
・学名:Paederia scandens
・分類:アカネ科 ヘクソカズラ属の蔓性多年草
・原産地:日本
・分布:東アジアに分布、日本では各地の藪や道端など至る所に、雑草として自生
・花言葉:人嫌い、意外性のある
■生態
蔓性の多年草で、蔓は左巻きに伸び、古い枝は木質化する。他の植物を覆うように繁茂するので良く目立つ。葉は細長いハート形で蔓から対生する。葉の付け根(葉腋)から花序を出し、多くの花をつける。この花序は、二出(にしゅつ)集散花序と呼ばれ、主軸の頂端に花を付け、開花後下位の両側に枝を出して頂端に花をつけ、更に下位に同様な方法で花をつけるもの。これだと無限に増えそうだが、限度はあるのだろう。結局、構造的には、2対の葉と多数の花のグループが蔓に沿って、繰り返し存在し、長い蔓を伸ばしていく。秋になると葉は黃葉し、球形で光沢のある果実が稔る。青空に映える果実は、花とは別の美しさがある。




■花
夏になると花が咲く。蔓から短い花柄が伸び、5裂した萼を介して漏斗形の白い花がつく。花筒の先は浅く5裂し、中心部は赤紫色になる。この部分から雌蕊の2本の柱頭が花筒から飛び出しているが、雄蕊は見当たらない。実は、雄蕊は細い花筒の奥にある。この細さだとミツバチは入り込めない。すると繁殖するためには、自家受粉するか、小さな昆虫に頼るかだが、ヘクソカズラは自家不和合性と言われているので、どうやら小さなハナバチが仲介しているとの説が最近では有力になっている。また、匂いは兎も角、花の美しさに因んだ"サオトメカズラ(五月女葛)"や、花の形や配色がお灸のように見えるので"ヤイトバナ(灸花)"という別名もある。ヘクソカズラの名誉のために、敢えて言っておく。





■果実
果実は球形で、熟すにつれ緑色から黄褐色、茶褐色になり、秋から冬に良く見かける。果皮は萼が変形したもので、熟すとカサカサになる。果実の中には、半球形の核が2つあり、その中に種子が1個ある。冬になると、独特の臭気はほとんど無くなり、果実の付いた蔓はドライフラワーやフラワーアレンジメントなどにも利用される。



■ヘクソカズラと日本人
ヘクソカズラは、臭くて人に嫌われていると言われている。他の生物、例えばフグだって強烈な毒がある。これらは自らの身を守るための手段であり、合理的なものだ。そのような性質を理解している日本人は、ヘクソカズラとの共存生活を進め、薬や化粧水まで創ってしまった。それでも、人との間には多少の距離感を感じる。その原因は、ヘクソカズラが持つ蔓の特性だと思う。周辺の植物に絡みつき、陽当りの良い部分には自らの葉を茂らせ覆い隠す。この利己主義的行為は嫌われ、民家の庭や庭園からは締め出され、野に生きる雑草として覚悟を決めたように思える。野趣あふれる夏の個性的な花や、秋や冬の褐色に輝く果実を愛でるには、やはり山野や道端が相応しい。