サルスベリ - 少しエキゾチック
サルスベリ(百日紅、猿滑)は、ミソハギ科サルスベリ属の落葉小高木。中国南部の原産で、日本には、江戸時代以前に渡来し、庭や公園、寺社などに植栽されている庭木。サルスベリの名の由来は、幹の表面が滑らかで、猿でも滑り落ちる程なので、"猿滑"。しかし、"猿滑"の別名を持つ植物は他にもある。ナツツバキやリョウブだ。これらと比較すると、本種には何か他に馴染みやすい特徴があったのだろう。それは、花の少ない夏から初秋にかけて、おおよそ百日にも及ぶ長い期間に見事な花を咲かせ続けること。そこで本種を本物の"猿滑”とし、ついでに中国での名称"百日紅"を、サルスベリと読ませてしまって既成事実化に成功した。サルスベリの花は構造的には6を基本数とする不思議な形をしており、生態的には縮れた花弁を持つ一日花だが、次から次へ咲き続け、花の色も品種改良のためもあり様々で、樹形さえも剪定が行われ、それぞれの個体によっても受ける印象も随分異なる。サルスベリには、庭木としての華やかさや柔軟性を感じる。

【基本情報】
・名称:サルスベリ(百日紅、猿滑)
・別名:ヒャクジツコウ(百日紅)、サルナメリ、クスグリノキ、英名:Crape myrtle
・学名:Lagerstroemia indica
・分類:ミソハギ科 サルスベリ属の落葉小高木
・原産地:中国南部
・分布:日本には江戸時代以前に渡来し、全国各地の庭や公園、寺院などに植栽
・花言葉:雄弁、活動、世話好き、愛嬌
■生態
樹形は幹が低いところから枝分かれするので、下方が幅広くなり安定感がある。自然のまま生育すると、高さは10mにも及ぶ。幹は樹皮が剥げ落ちて模様ができ、表面はツルツルしてる。葉は周囲に鋸歯のない楕円形。葉のつき方は、若い枝では、2枚ずつ左右交互につく珍しいもので、2対互生(コクサギ型葉序)と呼ぶ。枝の先に円錐形の花序をつくる。雌雄同株なので、花は両性花。日本の気候では落葉するので、秋には紅葉する。




■花
若い枝先に黄緑色の蕾ができる。蕾の頂点から裾へ6本の線がある(稀に7本も)が、開花すると線に沿って分離し、萼を形成する。その後に縮れたような花弁が開き、中央部では雄蕊や雌蕊が延び、開花が完了する。花は、円錐花序の下方から上方に咲き進む。花は一日花だが、蕾は多数あるので花序の何れかの部分は開花しているので、常に花が咲いているように見える。
花の構造はかなりユニーク。花柄の先に6枚の萼があり、しわくちゃに縮れたちりめんの様な6枚の花弁は扇型で、花の中心とは細い柄で繋がれている。中央部には多数の短い雄蕊があり、その黄色い葯は虫を誘う役割を持つ。他に6本の長く葯が紫色の雄蕊があり、この花粉が昆虫につく。雌蕊は1本で、長い雄蕊と同程度の長さ。構造的には6を基本数として成立している。外観上は、幾つかの特殊な部品が分散配置され、その間の空間も多いので、思ったより大きく、涼しげに見える。





サルスベリの花の色は、桃色、赤紫色、白色が多いが、庭木として植栽されるため品種改良も進み、色のバリエーションも豊富になった。どのような花の色があるのか、近所を徘徊してみよう。







■紅葉と果実
サルスベリは落葉前に、紅葉する。葉の形はシンプルだが、濃い赤色から橙色の鮮やかな紅葉はなかなか見事だ。果実は円い蒴果で、秋になると緑色の若い果実ができ、冬に熟すと褐色の果皮が6裂し、翼がある種子を飛ばす。種子を飛ばしたあとの果実の殻は遅くまで枝に残る。



■近縁種 シマサルスベリ
シマサルスベリ(島百日紅)は、中国中部、台湾、奄美諸島などの亜熱帯に分布するサルスベリの近縁種。北関東あたりが栽培の北限らしい。近所を徘徊中に、偶然遭遇した。サルスベリと比較すると、花の形はとそっくりだが随分と小さいが花数は多く、幹はやや白味がかって太く、樹木全体がが大きく感じた。花の色は白のみで、やや地味な印象がある。似て非なるものの発見は、植物散歩の醍醐味だ。



■サルスベリと日本人
サルスベリは中国南部が原産だが、日本のみならず、海外でも植栽されている。英名では Crape myrtleで、フトモモ科のギンバイカ(myrtle)の花に似て、花弁がちりめん(crape)のように縮れていることから。日本では、木肌が滑らかなので”猿滑”、中国では花が咲く期間が長いので”百日紅”、欧米では”ちりめん”のような花の形。これら3つの事象の論理積を取ると、確かにサルスベリになるような気がする。日本に本種が渡来した時、既に何種かの”猿滑”は存在したので、似た植物があれば、◯◯モドキ、ニセ〇〇のような名前が付けられたかもしれないが、独特な植物だったので、結局漢名の”百日紅”を獲得したのだろう。日本における本種の立ち位置は、和風の樹木とは異なり、多少エキゾチックな情緒を持つ庭木として認知されているように思う。郊外の住宅地では、庭木や街路樹として植栽されているので、今や暑い日本の夏のシンボルツリーになりつつある。