ヤマユリ - 称賛と長い試練
ヤマユリ(山百合)は、ユリ科ユリ属の多年生植物。日本の固有種で、陽当りの良い山地で、夏の野の花としては最大級の白い花を咲かせ、強烈な芳香を放つので、圧倒的な存在感があり、ユリの王様と呼ばれている。その反面、ヤマユリの生活史は厳しい。発芽から開花までには5年程度かかると言われている。そして、年々地下の鱗茎や茎などが生育するにつれ、より多くの花をつけ、漸く見事な姿になる。
また、鱗茎はユリ根として高級食材になったり、生薬の百合(びゃくごう)となって鎮咳、強壮に効用がある。19世紀にシーボルトがドイツにヤマユリを持ち帰り、それが園芸種カサブランカになって日本に里帰りした。日本各地では、ヤマユリは地元の花と決めつけ、勝手に地名をつけて吉野百合、箱根百合、叡山百合、鳳来寺百合とか呼んでいる。ヤマユリは皆に愛されている。見映えは素晴らしく、人当たりもよいが、何かいつも苦労が絶えないよう雰囲気もある。

【基本情報】
・名称:ヤマユリ(山百合)
・別名:ボンノハナ(盆の花)、ヨシノユリ(吉野百合)、ハコネユリ(箱根百合)、エイザンユリ(叡山百合)、ホウライジユリ(鳳来寺百合)
・学名:Lilium auratum
・分類:ユリ科 ユリ属の多年生草
・原産地:日本固有種
・分布:近畿地方以北の本州に自生、但し、栽培されていたものが各地で野生化してる
・花言葉:荘厳、威厳、純粋
■生態
ユリ科植物の実生は、若い間の数年は1枚の葉だけで過ごし、成長点である先端部分が伸び始めると、成長を加速する。地上の茎は直立し、草丈は人の背丈程。地下の鱗茎は扁球形で、黄色をおびた白色で10cm程の大きさで栄養分を蓄積する。これが食用のユリ根になる。葉は深緑色をした広披針形で先は尖り、短い葉柄がついて互生する。花がつく程成長すると、若い株は、大きな花の重みで茎全体が弓なりに傾くことが多い。

■花
茎の葉の脇から花柄が出て蕾がつくが、当初は1~2個、年月を経て株の養分が多くなると20個程度までになる。時たま成長点の異常(帯化)で、多数の蕾がつくこともある。開花直前には蕾は膨らみ、花被の内側にある模様が透けて見える。開花すると、花径は大きく20cmにもなる。花被は6枚あるが、良く見ると内側の幅広の3枚が花弁に相当し、外側の幅狭の3枚が萼に相当する。何れの花被も先端は後方に反り返る。花の中央には、雄蕊が6本、雌蕊が1本ある。雄蕊の葯は長く揺れ易いので、花粉が効率的に昆虫につく。雌蕊は粘着性のある密を持っていて昆虫を誘引し、受粉する。
また、花被の美しさにも注目したい。花被の内側には赤茶色の斑点が点在し、花の中央部に近づく程立体的になる。そして花被の両端まで一文字に黄色い筋が筋が走っている。この造形は、遠くから見ると、色の対比を強く感じさせ、良く目立つ。昆虫を引き寄せるための手段だろうか。優美なヤマユリの花だが、その中で最も野性味を感じさせる点だ。







■稲荷山公園のヤマユリ
狭山市にある稲荷山公園の北側に小高い見晴らし台があり、夏にはその周辺の斜面に沢山のヤマユリが咲く。2016年に自生株が見つかって以来、地元のボランティア団体が保護活動を行い、今ではヤマユリの名所になっている。ここのヤマユリの特徴は、長年生育を続けてきたので株が大きくなり、枝につく花の数も増え、究極とも言えるヤマユリの姿を見ることができることだ。狭山丘陵で見かけるヤマユリは殆どが若い株だったので、正直なところ稲荷山公園のヤマユリのボリューム感には圧倒された。



■果実
花の後に果実ができる。これは蒴果で、上向きにつく(風媒のためか)。果実は3室に分かれ、多数の扁平な半円形の種子が出来、熟すと風によって散布される。しかし、種子は翌年の春に発芽せず、その年の夏を越して秋になってから発芽する。


■ヤマユリと日本人
かつてNHKの番組"逆転人生"で、所沢の野菜がダイオキシンに汚染されているという誤った報道のため、疑いをかけられた産業廃棄物処理業者が、工場の処理プロセスを公開し、周辺環境の整備を進め、近隣住民の誤解を解いた。そして両者が集う森を造り、そこにヤマユリが咲く風景を創ることが出来た…とのドキュメンタリーがあった。ヤマユリには、誰もが納得する合意とか調和とかに相応しいイメージも含まれているのだろう。
けれども、誰もが称賛するヤマユリは一朝一夕にして成長する訳ではない。数年の雌伏期間があり、漸く見事な花を咲かせる。この間には、植物同士の繁殖地の獲得競争があったり、折角開花しても人為的に盗掘されたりすることもある。ヤマユリの盛衰は、自然環境と人間の意識に関係しており、自然環境保護のバロメーターになっている。夏になると今年のヤマユリはどうだろうと、ついつい丘陵を徘徊してしまう。