クサギ - 名は兎も角、超然とした存在
クサギ(臭木)は、シソ科クサギ属の落葉小高木。名称の"臭木"の由来は、枝や葉の汁に独特の臭気があるため。しかし、若葉は茹でると臭みは消えて山菜として食用になり、そればかりか枝葉は薬用に、果実は染料になる。日本の在来種であり、北海道から琉球まで各地に分布。平地から山地の陽当りの良い草地があると、そこに最初の樹木として入り込む先駆(パイオニア)植物でもある。真夏にピンクの萼から長く白い花弁が突き出し、その先に雄蕊や雌蕊が伸びる花の姿はユニークであり、色合いも素晴らしいし、葉とは異なり芳香を放つ。秋になると赤い萼の上に丸く光沢のある青い果実が載ると、その色の対比はくっきりと鮮やか。しかし、クサギを観賞できる期間は、夏から秋の半年間と短い。日本では、雑木扱いのクサギは滅多に植栽はされないので、郊外に出かけなければお目にかかれない。もっと花や果実にふれる機会があれば、印象は変る。クサギは名称故に誤解を与えているかもしれない。果たして実態は。

【基本情報】
・名称:クサギ(臭木)
・別名:クサギナ、クサギリ、トウノキ、トリバ、漢名:海州常山
・学名:Clerodendrum trichotomum
・分類:シソ科 クサギ属の落葉低木・小高木
・原産地:日本、朝鮮、中国
・分布:日本では全国各地
・花言葉:運命、治癒
■形態
クサギの樹高は、生育環境によりばらつくが、人の背を超えるが、高くてもサクラ並。幹は細く、上部で枝分かれし、樹形は横に広がる。樹皮は灰褐色で丸い皮目が多い。葉は、少し長い葉柄があって対生し、形は卵型で先端が尖り、葉の周囲は滑らかで、葉質は柔らかくて薄い。枝や葉などを傷つけると、不快な強い臭気がすると言われるが、ピーナツのように香ばしい匂いと感じる人もいるらしい。枝先の葉のわきから長い柄のある集散花序を形成する。




■花
蕾は花序の先端に現れ、形は5つの筋を持つ楕円体で、始めは薄い緑色で、成長すると膨らみ、先端は赤味を帯びてくる。やがて蕾が開き、筒状の花弁が伸び、先で5裂し平らに開く。これまで蕾と思っていた部分は、花の構造としては萼に相当する。開いた花弁の先には4本の雄蕊と1本の雌蕊がある。かなりユニークな花の構造だ。
また、受粉の方式もユニークだ。クサギは両性花であり、開花と同時に雄蕊も雌蕊も出るので、自家受精の可能性がある。これを雄性先熟で回避している。クサギの花は開花すると雄蕊はすぐに機能し葯からでる花粉を昆虫に運んでもらう。このとき雌蕊は未だ機能せず、開花2日目から柱頭が2裂して受粉可能となる。このときには既に雄蕊は萎れてしまうので、自家受粉は避けられる。そして3日目には花弁と雄蕊は落ち、雌蘂だけが残る。花期にはクサギの枝先に沢山の花が咲き続けているように見えるが、個々の花の命はわずか3日とは儚い。葉とは異なり、クサギの花には芳香があるのでアゲハチョウやカマキリなどの昆虫がよく集まる。





■果実
秋になると果実ができる。果実は液果で、赤くなった萼の上にほぼ球形の果実がつく。表面には光沢があり、熟すにつれ、色が黄緑、水色、青、黒へと変化する。晩秋になると、ヒトデのような赤い五稜形と黒い球形の果実の組み合わせは良く目立ち、鳥を呼び、食べられて、種子が拡散されるようだ。晩秋になると、葉は黄葉し、やがて落葉する。また、果実は草木染めに使われ、藁の灰汁で煮出せば、液媒染剤なしで絹糸を鮮やかな空色に染めることができる。







■近縁種のボタンクサギとゲンペイクサギ
ボタンクサギ(牡丹臭木)は、クサギ属の落葉広葉低木。中国原産の庭木で、中国名は臭牡丹。所沢近辺でも庭木として見かける。花の形状は似ているが、色はピンクで、花は群れて半円球に咲くので、こじんまりまとまっている。分離して独立したように見えるクサギの花とは、かなり印象が異なる。

ゲンペイクサギ(源平臭木)は、クサギ属の蔓性低木。 名の由来は、萼が白で花冠が赤いことを源平になぞらえた。原産は、熱帯西アフリカ。日本では植物園の温室で見られる。花の構造はよく似ているが、赤白の対比が強烈で、観賞が目的の異国の花だ。

■クサギと日本人
クサギは日本人にとって、古来より葉を食用にしたり、薬用として生薬"臭梧桐"の原料に、また草木染めの染料として有用な植物だ。しかし、花や果実の美しさについては、あまり注目されていない。野性味があり、形や色彩のダイナミクスも充分。海外由来の園芸用近縁種と比較するとその感を強くするのに何故だろうか。また、俳句の世界では、クサギの花は初秋の、実は晩秋の季語であり、季節感の表現する手段になっているが、クサギそのものは称賛の対象にはなっていないようだ。パイオニア植物として生きるクサギは、これらの人間の勝手な思い込みは気にせず、力強く生き続けている。もう少し、ポジティブな名称だったら、随分世間の評価も変わっていただろうに。