チャノキ - 人間と運命共同体
チャノキ(茶の木)は、ツバキ科ツバキ属の常緑樹。植物としての表記はチャノキが妥当だが、喫茶や文化など広い関連分野を含めて表現する場合は、チャ(茶)が一般的。原産地はインド、ベトナム、中国西南部らしい。チャノキにも2系統あり、葉や樹高が小さい緑茶に適した中国種と、葉や樹高が大きい紅茶向けのアッサム種だ。日本には中国種が奈良時代以前に渡来し、本格的に普及したのは、鎌倉時代に臨済宗の開祖栄西が中国から持ち帰った種子から、喫茶や茶道向けに栽培が始まってから。日本では茶葉の生産を目的にしているため、畝に植えられた株は、適当な時期に葉が刈り取られるので、花や果実を見る機会は少ない。垣根代わりに植えた生垣では、剪定がゆるいので四季のチャノキの移ろいが楽しめる。数多いツバキ科の植物の中でも、シンプルで清楚な姿だと思う。

【基本情報】
・名称:チャノキ(茶の木)
・別名:チャ(茶)、メザマシグサ(目覚草)
・学名:Camellia sinensis
・分類:ツバキ科 ツバキ属の常緑樹
・原産地:中国西南部、インド、ベトナムらしい
・分布:日本には奈良時代以前に渡来し、現在では各地で栽培
・花言葉:純愛、追憶
■形態
チャノキの中国種は、自然のままに生育すると、樹高は人の背を超える。幹は株立ち、よく分枝する。古い幹の樹皮は灰白色だが、若い枝は褐色で、一年枝は緑色。葉は互生し、葉の形は長楕円形で、先が尖り、縁には細い鋸歯がある。葉質は革質で薄く、表面は濃緑色で、艶がある。表面は、葉脈に沿ってくぼむ一方、その間の面は上面に盛り上がり、全体に波打つ。茶畑の株は、茶葉を機械で刈り取るため、枝は一定の高さに抑制されるので、花は畝の端部にわずかにつくのみ。



■花
夏を過ぎると、一年枝の葉柄基部から短い柄で緑色の蕾が主に下向きにつく。これが成長して大きくなると、表面には未だ閉じた白い花弁が現れる。更に成長すると、花弁の先が割れ、その内側に多数の雄蕊が見えてくる。開花した花は、白い花弁と黄色い雄蕊のコントラストが美しい。花弁数は5枚が標準だが、それより多いものもある。花弁が包むように多数の雄蕊があり、花糸は白く、先には黄色い葯がある。花の中央には雌蕊があり、花柱の先端は3裂する。花柄と花の間に緑色の萼が5個程度つく。 花の満開が過ぎると、花弁と雄蕊の間の距離が離れていく。チャノキの花は雄蕊の中に雌蕊があり、自家受粉の確率は高いように思うが、実際には数パーセントと低く、しかも自家受粉で出来た種子の発芽率も10パーセント程度らしい。このため、チャノキは他の個体と交配するのが標準であり、且つ自家不結実性植物とみなされている。花の物理的な構造からはうまく説明できないが、何らかの作用が働いているのだろう。









チャノキに集まる昆虫は多い。花粉の媒介する有益な昆虫は、ハチやアブ、チョウなど。アブラムシやアリなどもいたが、これは別の目的、例えば養分の搾取なのかもしれない。





■果実
花が終わると、果実は萼に囲まれたほどの小さな幼果で冬を越す。本格的に果実が生育するのは、花が咲いた翌年だ。初秋には果実の大きさは花の大きさほどに膨らみ、表面は緑から褐色を帯びてくる。果実は蒴果で、中には3つ程度の室があり、その中に1個ずつ暗褐色の種子がある。種子の個数は果実の外形の膨らみ具合で想像がつく。冬になると果皮が割れ、種子が露出する。やがて種子の落ちた果実の外皮が枝に残る。自生株の場合はこのようなプロセスで繁殖をするが、茶畑などで栽培するには、挿木で育てた苗を使うのが一般的だ。




■チャノキと日本人
日本人はお茶を喫茶するだけでなく、薬用にも利用し、更には茶道のように日本の伝統的な作法にまで昇華した。しかし、植物的なチャノキの立場から考えると、これらは勝手に人間が利用したものであり、若葉が出ると刈り取られ、花も実も充分に生育出来ない状態に置かれている。逆に人間の立場からすると、お茶を飲むときは加工された茶葉やペットボトルを買うし、茶道の場合も習い事の手段として抹茶を利用するので、実際のところリアルな植物のチャノキを思い浮かべることはない。この"チャノキ"と"お茶"の概念の乖離は、人間の活動が創り出したものだ。日本人はお茶が大好きで、今後も産業としての茶業は続いていく。それは良いことだが、自然を利用した産業は環境や人間の活動を考慮しながら、持続可能な状態を維持するする必要がある。お茶は、自然の恵みの上に成り立っているとの認識をもちつつ、チャノキの白い清楚な花を思い浮べながら、地元の狭山茶を味わいたい。