ナンテン - 冬の寒空に映える実
ナンテン(南天)は、メギ科ナンテン属の常緑低木で、1属1種の植物。原産地は中国やインド。日本でナンテンが文献に現れたのは、藤原定家の日記"明月記"なので、12世紀頃以前に渡来したようだ。現在は、北海道、東北を除く地域で植栽、または野生化している。ナンテンといえは、正月頃に円錐状の穂の中に赤い球形の実がたわわに稔り、冬の寒空に映えて、何か鮮烈なイメージが思い浮かぶ。先人たちは、ナンテンを"難転"すなわち"難を転ずる"と解釈し、縁起ものとみなして、正月の飾り物や火災除けの植木にした。また薬用として、葉は生薬"南天葉"として鎮咳、解毒などに、実は生薬"南天実"として鎮咳、解熱に利用した。江戸時代には、様々な園芸種が生み出された。白い果実をつけるシロミナンテンは、現在でも盛んに栽培され、紅白の南天の実は、冬の散策の楽しみになっている。

【基本情報】
・名称:ナンテン(南天)
・別名:三枝(サエグサ)、中国では南天竺、南天燭、南燭など、英名はheavenly bamboo、Sacred Bamboo
・学名:Nandina domestica
・分類:メギ科 ナンテン属の常緑低木で、1属1種
・原産地:中国、インド
・分布:日本には12世紀以前に渡来し、北海道、東北を除く地域で植栽、または野生化
・花言葉:私の愛は増すばかり、機知に富む、福をなす、よい家庭
■形態
常緑広葉樹の低木で、樹高は人の背の高さを超えるものもある。株は群れを作って立ち上がり、幹の先端に葉が集まってつくので、上に行くほどボリューム感のある独特の姿をしている。幹の樹皮は褐色で縦に溝がある。葉は互生し、葉の構成は3回3出羽状複葉。小葉は広披針形で、葉身は革質で深い緑色で、ややつやがあり、葉の縁は滑らか。春になると、新しい赤みがかった今年枝が伸び、よく目立つ。




■花
初夏になると、茎の先端の葉の間から、円錐状の花序が伸び、その先に白い蕾がつく。その後、蕾は位置的にはランダムに咲き始める。花は6弁で、中央に柱頭の先端が紅色の雌蕊があり、それを取り巻くように6本の雄蕊があり、その先に黄色く長い葯がある。開花すると花弁は落ちやすく、雄蕊は雌蕊から次第に離れて落ち、花柄の先には子房が残る。




■果実
夏になると子房は楕円体の緑色の未熟な果実となり、秋になると球形になって表面が赤味がかってくる。初冬には果実は赤く熟し、冬を越す。果実の中には半球形の種子が2個合わさっている。また、冬の赤い実はよく目立ち、野鳥がこれを採食して種子を遠くへ運ぶ。




■紅葉
一般に紅葉する木は落葉樹で、落葉前の短い期間に葉の色が変わる。ナンテンは常緑樹なので落葉はしないが、ある条件下では紅葉する。日陰にあるナンテンは冬でも葉の色は緑色のままだが、陽当りが良く吹きさらしの場所では寒風と霜が直接当たり、赤く色づく。このため、冬は同じ場所でも、ナンテンの葉は緑色のものもあり、赤いものもある。



■近縁種 シロミナンテン
シロミナンテン(白実南天、学名:Nandina domestica Thunb. 'Shironanten' )はナンテンの園芸種で、シロナンテン(白南天)の別名もある。ナンテンとの相違は、果実の色が白いこと、冬になっても葉は紅葉しないことぐらい。シロミナンテンとは言っても、果実の色は、白いものから、黄色みを帯びたものまである。これは園芸種としての出自なのか、生育環境のためかは分からないが、観賞の楽しみは増した。




■ナンテンと日本人
日本人が、外来種であるナンテンを称賛する理由はなんだろうか。1つ目はこの植物が持つ明確な造形にある。秋から春まで存在する穂にたわわに実った赤い実と独特な構成をした立派な葉の組み合わせは簡素で印象に残る。2つ目は常緑樹で何時もそこに存在すると言う安心感。新しい今年枝が伸びても、これまでの緑の枝に加わって成長し、少しずつ大きくなっていく。この存在感は縁起物に必須な要因だ。それだけではない。陽の当たり方によって変化する紅葉、時々出会う白色の果実、これらの変化球はカリスマには必要だ。だからナンテンは良いのだ。