リョウブ - 際立つ花序の変化
リョウブ(令法)は、リョウブ科リョウブ属の落葉小高木。丘陵地に自生する他、団地内の緑道にも植栽されている。春になると枝先に新緑の鮮やかな葉が集まってつき、やがてそこに花序が形成され、そのままの形で蕾、花、果実ができる。秋になると紅葉し、冬を越し春になると若葉とともに枯れた果実のついた花序が残っている。四季それぞれに花序は姿を変えていくので、とても気になる存在だ。植物らしくない令法と言う名は、律令時代に、若葉が食用となるため飢饉に備えて植栽することを令法(りょうぼう)によって命じたとの説がある。食用の他に、緻密で美しく材質が道具類の材料に使われたりもする。何やら人間との関わり合いも深そうだ。

【基本情報】
・名称:リョウブ(令法)
・別名:ハタツモリ(畑積、畑つ守、旗積もり)、サルスベリ、サルダメシ、中国名:髭脈榿葉樹、英名:Japanese clethra
・学名:Clethra barbinervis
・分類:リョウブ科 リョウブ属の落葉小高木
・原産地:日本、済州島、中国、台湾に自生
・分布:日本では北海道南部から九州に自生する他、各地で植栽される
・花言葉:溢れる思い、くつろぎ
■生態
幹は根元から分岐して株立ちする。樹皮は表面が縦長に薄く剥げ落ちて、茶褐色と灰褐色のまだら模様で、滑らかな木肌になり、ミソハギ科のサルスベリ(百日紅)のようになるので、"サルスベリ"と呼ぶ地方もある。また、同じ別名を持つナツツバキも、やはり樹皮は良く似ている。葉は、春に芽吹き、枝の先に互生するが密に集まってつくので、一見互生しているようには見えない。この若葉が枝先についた頃が食用に適している。成長した葉の形は桜に似て、先が尖り、葉縁に細かな鋸歯がある。




■花序
若葉に続き、枝先に花序がつく。この花序に沿って蕾がつく。最初は茎と直結し、蕾を包む部分が一部赤くなっているが、時間を経ると赤味は薄れ、蕾と花茎の間は花柄でつながる。この花序の形式は、典型的な総状花序だ。




花は花序の下方から上方へ咲いていく。常に花序の一部の花しか咲かず、咲くと直ぐに花弁が褐色になり始めるので、花の美しさは儚い。花自体は、小さくて白い清楚な花で、形はウメに似ている。花柄の先に白い5枚の萼片が有り、その先に5弁の白い花弁があるが、これらは基部でつながっている。雄蕊は10本で中央に雌蕊があるが、これらは長く花弁の外側まで突き出す。雄蕊の葯はくさび形で、雌蕊の花柱の先は3分裂する。花期には多数の花が咲くので、ハチやチョウなどの昆虫が集まる。また、この時期から花序は次第に垂れ下っていく。



花後に果実ができる。果実は花と同じ花序の上にでき、花柱も残っているので、遠目からは花と果実を見分け難い。果実は、秋になると褐色に熟す蒴果だ。熟すと裂開し、小さい種子を多数だす。



秋が深まると紅葉が始まる。紅葉の程度は自然環境にも左右されるが、当地における紅葉の程度は、葉が赤くなるものはなく、殆どが黄色や褐色に入り乱れて変化する。紅葉の間も、果実のついた花序はしっかり残っている。




冬になると葉は落ちるが、枯れた果実のついた花序は翌年の春まで残ることがある。去年の役割を終えた残留物と、これから役割を果たす新たなものの一時的な共存は、生命の継続性を感じさせる。


■リョウブと日本人
リョウブは、律令時代には飢饉対策の一環として政府が栽培を命じた程、社会的に重要な存在だったのだろう。古名の"ハタツモリ"は、畑つ守、畑守、畠積りとも表記され、これを栽培することが人々にかなりのステータスを与えるようになったのだろう。時代を経ても、飢餓時の備えとしてのリョウブの利用は、先の大戦の戦中・戦後まで続いたらしい。今では、好んで食べる人はいないし、積極的に植栽されている様子もない。現代の日本人にとっては、リョウブとは四季ごとに花序の変化を楽しめる植物ではあるが、それに加えて飽食の時代を戒める存在なのかもしれない。