ヒメカンスゲ - 早春の麗しい雑草
ヒメカンスゲ(姫寒菅)は、カヤツリグサ科スゲ属の多年生草本。日頃は特に目立つ雑草ではないが、早春の山野をシュンラン見たさに散歩をしていると、細長い葉がこんもりと茂った一画に近づいてみると、残念ながら目当てのシュンランではないが、幾つもの黄色い穂を出している本種に遭遇した。手を触れると、大量の花粉が飛散したのも驚きだった。春が深まるにつれ、周囲の雑草の背丈も高くなり、相対的にヒメカンスゲの存在感は薄れて行ったが、2ヶ月後には果実を包む果胞を実らした。ヒメカンスゲは日本の自生種で、北海道から九州までに広く分布するが、生育地や環境によって、葉の形や根の張り方、茎の色など変異の多い種のようだ。人間にとってあまり馴染みがないヒメカンスゲだが、如何にも雑草らしい強靭さと共に神秘性も感じさせる。今年の春に狭山丘陵で遭遇したヒメカンスゲを記録に残しておく。

【基本情報】
・名称:ヒメカンスゲ(姫寒菅)
・別名:-
・学名:Carex conica
・分類:単子葉植物 カヤツリグサ科 スゲ属の多年生草本
・原産地:日本の在来種、韓国の済州島にも自生
・分布:日本では、北海道から九州までに広く分布
・花言葉:ヒメカンスゲ
■形態
地下か地表に水平に伸びる茎(匍匐茎)を出して広がり、基部の鞘は紫褐色。葉は堅くて細長く、前年葉は濃い緑色で本年葉は緑色をし、縁はざらつく。寒い冬季にも常緑を維持している小形のスゲなので、姫寒菅の名がついた。


■花茎
花茎は、葉と同程度まで伸びるので、先端に穂がつくと良く目立つ。先端につくのは雄小穂で、始めは黒褐色から褐色でやや太い楕円体。その後、雄小穂からは溢れるほどに葯が飛び出し、くっきりと黄色く色づいて黄色い房のように見え、花粉を拡散する。小柄ながらも他のスゲ類よりも良く目立つ。雄小穂の下には互いに離れて数個の雌小穂が出る。雌小穂は細長い円柱体で柄があり、斜め上を向いて出る。小花はややまばらにつく。









■果胞
花が終わると、花茎の雌小穂部分に果胞ができる。果胞は少し細長い卵形で先端は短い嘴となり、やや反り返る。果胞を包む鱗片は紫褐色で果胞より少し短い。果胞の中に果実がある。




■ヒメカンスゲと日本人
シュンランの写真を撮ろうとして、偶然に見つけた早春のヒメカンスゲは思いがけず美しい植物だった。ヒメカンスゲを識別できるようになると、あちこちに自生しているごく普通の雑草であることも分かった。人間との関わりは、数寄者が鉢植えを育てる程度で、ほぼ無い。地域性もあり変種も多いらしいが、それでも在来種として生き続け、雑草が生育する自然環境の指標となっているようにも思う。雑草の中には、その生活史の中で何も注目されない種類も多いが、早春の一時でも称賛されるヒメカンスゲは、人間に近い雑草かもしれない。