スズラン - 日本とドイツ

  スズラン(鈴蘭)は、キジカクシ科スズラン属の多年草。日本の在来種であり、北海道や本州の高原などで群落をつくり自生する。春になると先端の尖った長い楕円形の葉の間から花茎を伸ばし、その先端に芳香のある白い釣り鐘状の花を数輪咲かせる。この緑の葉と白い花のコントラストやシンプルな構成が清楚なイメージを与えばかりでなく、秋になると赤く熟した球形の果実が枯れゆく葉とともに地上から消えゆく様は儚さをも感じさせる。日本人の感性にあった大変人気のある花だ。北海道を中心に、地方自治体のシンボルの花としている所も多い。しかし、美しいスズランには毒があり、山菜と間違えて食べたり、スズランを活けた水を飲んでも中毒を起こす。またスズランの仲間には、やや大型で芳香の強い欧州原産のドイツスズランがあり、これが園芸種として市場を席巻し、こちらが現在では多数派になっている。

スズランの株 (2011年5月8日 所沢市)

【基本情報】
 ・名称:スズラン(鈴蘭)
 ・別名:キミカゲソウ(君影草)、タニマノヒメユリ(谷間の姫百合、英名:Lily of the valley)
 ・学名:Convallaria majalis var. manshurica
 ・分類:キジカクシ科スズラン属の多年草(旧分類ではユリ科)
 ・原産地:日本か
 ・分布:東アジア、日本では北海道や本州の一部
 ・花言葉:純粋、希望、純潔、純愛、謙虚、幸福の再来

■形態
 地面浅くに地下茎があり、その先端から芽を出して2~3枚の葉を出す。葉は先端の尖った長い楕円形で、地際で筒状に巻いて茎のようになる。春になると、葉の間から花茎を伸ばして、その先端に芳香のある白い釣り鐘状の花を数輪つける。スズランの花茎はあまり長く伸びず、葉の下に隠れるような位置で花が咲く。花が終わると丸い果実ができ、熟すと赤く色づき、やがて果実を落とし、葉も枯れて地上から姿を消す。

若い株 (2024年4月12日 所沢市)

■花
 スズランの花茎は、地際から伸びた長い楕円形の葉よりは短く、花茎とは短い花柄を介して下向きに数個の花がつく。花の形は釣り鐘状で、色は白く、弱い芳香がある。スズランの群生を離れて観てみると、緑色の葉の隙間から、白い花が点在している様に見える。花の構成は、雄蕊は6本で葯は黄色、雌蕊は1本。そして、雄蕊の基部の色は花弁と同様に白いのが特徴。

スズランの花茎は葉の間から見え隠れする (2012年5月6日 所沢市)

同上 (2012年5月6日 所沢市)

花には雄蕊が6本、雌蕊が1本で、雄蕊基部は白い (2004年4月24日 所沢市)

■果実
 花が終わると、果実が生育する。果実はほぼ球形の液果で、生育するにに従い黄緑色、黄色、朱色、深い赤へと色が変化する。種子は果実あたりに数個入っている。

未熟の黃緑色の果実 (2013年8月15日 帯広市)

黄色みを帯びた果実 (2013年9月14日 所沢市)

赤みを帯びた果実 (2012年10月13日 所沢市)

熟した赤い果実 (2011年11月20日 所沢市)

■ドイツスズラン
 これまで日本の在来種のスズランについて言及してきたが、今では園芸種として広く普及し、多数派となった欧州原産のドイツスズランとの相違についてチェックしておく。自宅の庭には実家の北海道から移植した在来種のスズランがあり、学習のため利用する東京都薬用植物園の有毒植物区にはドイツスズランがある。スズランとドイツスズランの相違点を列挙すると、
(1)一般にスズランは花が葉の上に出ないが、ドイツスズランは葉より高い位置に花を付ける
(2)全体的にドイツスズランの方が大きい
(3)葉はドイツスズランの方が厚く、透過光が微かに通る程度
(4)芳香はイツスズランの方が強い
(5)雄蕊の基部の色が、スズランは白、ドイツスズランは紫色

 相対的な比較が多く、唯一(5)が絶対的な評価基準になる。確かに東京都薬用植物園のドイツスズランの雄蕊の基部の色は紫だが、濃淡があり微かに紫色のものもある。分類学的には、スズラン(学名 Convallaria majalis)もドイツスズラン(学名 Convallaria majalis)も同じキジカクシ科スズラン属だが、一応別種。個体によるばらつきもあると思うので、断定できるかは結構微妙。それは兎も角、ドイツスズランは園芸種に適した見映えや芳香があるので、多くの園芸種が創られている。

ドイツスズランの花茎は葉の高さを超えることが多い (2007年5月4日 東京都薬用植物園)

ドイツスズランの雄蕊の基部は薄い紫色 (2007年5月4日 東京都薬用植物園)

【比較】スズランの雄蕊の基部は白色 (2004年4月24日 所沢市)

■スズランの毒性
 スズランには、全草にコンバラトキシンやコンバロシドなどの有毒物質が含まれ、人の体内に入ると、嘔吐や頭痛、めまい、血圧低下、心臓麻痺などの症状を引き起こす可能性がある。毒性は、青酸カリの約15倍の強さと言われている。北海道では外見が似ている山菜のギョウジャニンニクを誤って摂取し、中毒症状を起こす例がある。また、スズランを活けていた花瓶の水を幼児が飲み死亡した例もある。また、アイヌ民族は、スズランを"毒の花"として警戒した。一方で、スズランには強心作用や利尿作用があることから、生薬や製薬の原料とされている。

■スズランと日本人
 スズランは春に地上に現れ白い釣り鐘状の花をつけ、秋には赤い果実を実らし、冬には地上から消え、四季の変化を具現化してくれる美しい植物だ。その一方で強い有毒性を持ち、取り扱いは厳重な注意が必要。このような相反する二面性をスズランは持つが、一般的な感情としては、花言葉でも示されるように、純粋、希望、純潔、… とか肯定的なものが多い。有毒性については、どのように扱えばよいか知っていれば対応は可能。それよりも、スズランから受ける感動や感性が勝るのだろう。