春耕前の雑草の賑わい - 生き残りへの執念

 建売住宅の庭は芝生というのが、暫く前は常識だった。しかし、箱庭のような狭い土地を芝生にして何のメリットが有るのか、伸びる芝生を定期的に短く刈る作業の無意味さに気が付き、芝生を剥がし家庭菜園に衣替えした。例年、胡瓜、トマト、茄子、獅子唐などを育てている。年末に畑地の部分を掘り返し、その周辺には手を入れずに半年程度放置すると、様々な雑草が何処からか湧き出してくる。家庭菜園開始に当たり野菜を植えるため春耕をするが、その直前の雑草の様子を見てみよう。写真は何れも2024年5月2日に撮影。

■ヤブガラシ
 ヤブガラシ(薮枯)は、ブドウ科ヤブカラシ属のつる性の多年草。日本ではよく見かける雑草で、夏の花期には偏平な集散花序がつき、星がバラ撒かれたように多数の淡緑色の小花が徐々に開花する様子を見ると、あの雑草かと思い出す人は多いと思う。5月初旬時点では茎が伸び、葉の色は濃くやや茶色がかり、ツルがどの方向に伸びようかと詮索しているよう。畑の中にでも縁地でも、あたり構わず生えるのは、恐らく種子が鳥によって運ばれたのだろう。エネルギーを蓄えた飛躍の時期を迎えた途端に引き抜かれて残念なことだろうと思うが、夏には何処かで成長した姿が見られるので、勘弁。

畑地に生えたヤブガラシの株

畑の周辺に生えたヤブガラシの株

■ハハコグサ
 ハハコグサ(母子草)は、キク科ハハコグサ属の越年草。春から初夏に、茎の先端に小さな頭状花序を幾つか房状につけ、黄色い花が密に集まって咲く。春の七草の1つ(御形)で、茎や葉の若いものを食用にする。秋に発芽して、冬は白っぽい根出葉がロゼット状態で越冬し、春になると茎を伸ばす。葉は柔らかく、表は緑色、裏は多くの綿毛に覆われて、茎葉が全体的にやや白っぽく見える。越年草のためか、5月初旬時点では、まだ茎のもの、蕾のもの、花が咲いたものなど生育の度合いは様々。畑の周辺に多く、耕さない領域なので根が残っているのだろう。

畑の周辺部に群生するハハコグサ

ハハコグサの若い株

ハハコグサの黄色い花

■ハルジオン
 ハルジオン(春紫菀)は、キク科ムカシヨモギ属の多年草。北米原産で、日本では大正時代に渡来した帰化植物。繁殖力が強く、日当たりの良い場所では、いたるところで見られる雑草だ。秋のうちに芽を出して、葉をロゼット状に広げて越冬する。花期は春で、茎は先の方で何回か枝分かれして、ピンク色を帯びた白い花をつける。花の蕾はうつむき、開花すると上を向く。頭花は周囲にごく細い白色からピンク色の細長い舌状花を多数持ち、花の中心に集まる筒状花は黄色。果実は痩果で、種子のほか地下の根でも殖える。5月初旬時点では、畑地の周辺で、蕾や花の咲いているものが群生している。

うつむき加減のハルジオンの蕾

ハルジオンの花

■オランダミミナグサ
 オランダミミナグサ(和蘭耳菜草)は、ナデシコ科ミミナグサ属の小型の越年草。欧州原産で、帰化植物として世界中に分布。秋に発芽し、葉をつけた状態で越冬、暖かくなってから白い花を咲かせ、タネをこぼしてから枯れる。ただ、陽当りが良ければ季節に関係なく繁殖し、しかも閉鎖花で自家受粉もできるので、繁殖力は強力。5月初旬時点では畑地のかなりの部分をカバーし、咲いている花よりも花弁は閉じて果実が成長中のものが多かった。

オランダミミナグサの花が咲き終わり、萼に包まれた果実が成長中

■トキワハゼ
 トキワハゼ(常盤爆)は、サギゴケ科サギゴケ属の一年草で日本の在来種。花が春から秋まで長い期間咲いているのでトキワ(常磐)との名がつくが常緑ではなく、また果実がはぜる(爆ぜる)様子に由来してこの名がついた。根から数枚の葉をつけ、茎を伸ばし、総状花序をつくり、まばらに花をつける。花は筒状で、下側が前に平たく伸びた唇型花。上唇は浅く2裂して筒の部分はうすい紫色、舌状部は白っぽく先端が3裂してその中央には黄褐色斑点。良く似たムラサキサギゴケと異なり、地面を這うのではなく、茎を伸ばすので簡単に引き抜ける。5月初旬時点では、畑地と周辺に花が咲き始めていた。

トキワハゼの花

■カタバミ
 カタバミ(片喰)はカタバミ科カタバミ属の多年草。在来種で、日本全土、世界の熱帯から温帯まで分布。地下に太い根があり、地上茎が地表を這って広がる。葉は3つの小葉からなり、小葉はハート形。茎はあまり高く伸びずに、茎と葉の付け根から2~3個の花柄を出して5弁の黄色い花をつける。花期は4~10月と長い。果実は円柱状で先が尖り、真っ直ぐに上を向いてつく。成熟時には動物などが触れると、自ら弾けて種子を1m程度飛ばし、繁殖力は旺盛。5月初旬時点では、花も蕾も多い。特に畑周辺の毎年カタバミが存在していた場所には、必ず生える。

カタバミは、敷石の間からも毎年出現するスキマ植物でもある

■ホトケノザ
 ホトケノザ(仏の座)は、シソ科オドリコソウ属の越年草で在来種。葉の様子を、仏が座る蓮華座に見立てて仏の座と命名された。シソ科特有の四角断面の茎は、下部で枝分かれして、先は直立する。花期は3~6月で、上部の葉脇に赤紫色の唇形状の花をつける。上唇はかぶと状で短毛がびっしり生え、下唇は2裂し濃い紅色の斑点がある。開花する花の他に、つぼみのままで結実する閉鎖花が混じることが多いので繁殖力は高い。5月初旬時点では、花の盛りは過ぎ、種子もできつつある。そして、葉が白っぽくなってきた。

ホトケノザの花

ホトケノザの種子

■オヤブジラミ
 オヤブジラミ(雄藪虱)は、セリ科ヤブジラミ属の越年草。日本各地に分布。秋に発芽したあと、ロゼットの状態で越冬。茎は直立し、上部で分枝。葉は良く目立つ3回3出羽状複葉になり、小葉の羽片は細かく切れ込む。花期は4~5月。茎の分枝した先端に数個の花をつける。花は白色の5弁花。果実は長楕円形で、果実の刺毛はやや長い。5月初旬時点では、花の盛り。畑地の周辺に少数生えていた。

オヤブジラミの葉と花

オヤブジラミの白い5弁花

■ハコベ
 ハコベ(繁縷)は、ナデシコ科ハコベ属の植物。ハコベは一般にはコハコベとミドリハコベの総称とする場合と、コハコベを指す場合もある。ややこしいことに、コハコベとミドリハコの判別も結構難しい。ミドリハコベは在来種だが、コハコベは幕末から明治にかけて渡来し、今や大半がコハコベとなっているらしい。日当たりのよい場所を好み、季節に関係なく出現し、年中開花や結実を繰り返している。小さくて白い5花弁を開くが、花弁の先が2つに深く切れ込んでいるので10弁に見える。ハコベは地力が高い畑に生える代表的な雑草で、ハコベが多い畑はすでにある程度栄養素の量があり、野菜との共生が可能とのこと。5月初旬時点では、畑地で花盛り。思い切り除去してしまったが、拙かったかな。

ハコベの花

■オドリコソウ
 オドリコソウ(踊子草)は、シソ科オドリコソウ属の多年草。花が輪生した様子が、笠をかぶって踊る踊子に似ていることにより命名された。茎はやわらかく、葉は先端が尖った卵型で対生する。上部の葉の付け根から白色から淡紅紫色の唇形花が輪生する。上唇は兜状、下唇は3裂する。中央の裂片は大きく前に突き出し、浅く2裂する。花期は3〜6月。5月初旬時点では、1本だけ木陰に生えていたが、既に花が終わり、見るも無惨な姿。近縁種のヒメオドリコソウは4月までは残っていたが、既に消えてしまった。

5月のオドリコソウ

■ムラサキケマン
 ムラサキケマン(紫華鬘)は、ケシ科キケマン属の植物。全国に分布。種子は6月頃成熟し、発芽するのは翌年の春で、初夏までに成長して地上から消え、地下に塊茎を残し、秋になると葉を出して冬はロゼット状で過ごし、春になると花をつける複雑な生活史。花期は4~6月。赤紫色のキケマン属に独特の筒状の花を咲かせる。花の後方に蜜が入った長い距が突き出し、前方には上下に紅紫色の唇形の花弁がある。昆虫が蜜を求めて花の中に入ると、雄蕊と雌蕊が入っている部分に触れて花粉を運ぶ仕掛けになっている。5月初旬時点では、既に花はほぼ終わり、細長い果実ができつつあった。ムラサキケマンが生えていたのは、春耕はしないミョウガを植えてある場所で数株現れた。

ムラサキケマンの名残の花

ムラサキケマンの果実

■スズメノカタビラ
 スズメノカタビラ(雀の帷子)は、イネ科イチゴツナギ属の一年草だが、冬を越して越年草となることもある。穂が集まった様子を雀の着物(カタビラ)に見たてて命名された。欧州原産らしいが、日本全土で身近な雑草。地下茎はなく、数本が株立ちし、全体が黄緑色で柔らかい。茎は葉の基部の鞘に包まれ、葉は平らで短めの線形。花序は円錐花序で、季節を問わずに出て、枝が横に広がる。小穂は卵形、偏平で小花が数個つく。年中発生するのであまり意味はないが、5月初旬時点に見たのは、畑の周辺の隅に数株生え、穂の中に花がついていた。

スズメノカタビラの穂

■キュウリグサ
 キュウリグサ(胡瓜草)は、ムラサキ科キュウリグサ属の越年草。名は、葉をもむとキュウリのようなにおいがすることに由来。秋に発芽し、越冬はロゼット状に葉を広げ、春に花を咲かせる。茎の先についた多数の蕾は、下の方から順に開花していく。花は花弁は淡い青紫色で中心部は黄色く、雑草にしては美しい。園芸種のワスレナグサを縮小した感じだ。5月初旬時点では、茎の先端に花が残っている程度だが、細くて目立たないが結構広い領域に分布していたので、少々驚いた。

キュウリグサの花茎

キュウリグサの花

■ヘクソカズラ
 ヘクソカズラ(屁糞葛)は、アカネ科ヘクソカズラ属の蔓性多年草。藪や道端など至る所に生える雑草。夏に中心部が赤紅色の白い小花を咲かせ、秋には熟すにつれ球形の果実が緑色から黄褐色、薄茶色へと変化する様は見もの。葉や果実を揉むとおならや大便のような臭いがするので不名誉な名をつけられてしまったが、雑草にしては美しい。5月初旬時点では、まだ蔓と葉しか無く、これらから美しい花や果実を想像することは難しい。畑地の周辺には丈夫そうな茎と葉が結構はびこっており、雑草としての貫禄は充分感じさせる。

ヘクソカズラの茎と葉

■ツメクサ
 ツメクサ(爪草)は、ナデシコ科ツメクサ属の雑草。細い葉を鳥の爪に見立てたのが名の由来で、マメ科のクローバーのツメクサ(詰草)とは別種。茎は根元で分岐し、地を這うように伸びる。葉は線形で対生し、枝先や葉のつけ根から花柄を伸ばし、白い5弁の花をつける。花期の盛りは春から初夏だが、ほぼ1年中、開花と結実を繰り返す。環境や季節によっては、閉鎖花で自家受粉する。花の後に丸い果実ができ、熟すと先が5つに割れて、中から砂粒のように細かいタネが大量にこぼれ落ちる。5月初旬時点では、花が幾つか咲いた状態だった。この花がないと、ツメクサの存在に気がつかなかったかもしれない。

ツメクサの株

ツメクサの花

■イヌワラビ
 イヌワラビ(犬蕨)は、イワデンダ科のメシダ属の在来種のシダ。名の犬蕨は、役に立たないシダの意味。イヌワラビは林や道端で普通に見られるが、変異が多く、わかりにくいものも多い。今回、畑に生えていたものは色や形から推定すると、ホソバイヌワラビかもしれない。胞子の他に地下茎でも旺盛に繁殖する。なかなかタフな雑草だ。

イヌワラビの株

■ドクダミ
 ドクダミ(蕺草)は、ドクダミ科ドクダミ属の多年草。薄暗く湿った場所で地下茎でどんどん増え群生する。葉は典型的なハート形。萼片や花弁を欠く黄色い小さな花が縦に密集し、その基部に白い花びらのような4枚の苞が横に広がり、これで1つの花のように見える。梅雨の頃に一斉に開花する。茎や葉には独特の臭いがあるが、古くから何にでも効く薬草として重宝され、現代でも健康茶の材料として人気がある。5月初旬時点では、蕾が多数ついた状態。畑地周辺に広がり、地下茎が強力なためか、茎を引き抜いても直ぐに再生するので、暫くは根比べが続きそう。

ドクダミの株

■ノビル
 ノビル(野蒜)は、ヒガンバナ科ネギ属の多年草。東アジアに広く分布し、日本では北海道から沖縄まで自生する。地中に白くて丸いラッキョウのようなもの(鱗茎)があり、この部分が食用になる。初夏に花茎を長く伸ばし、その先に蕾がつく。蕾は総苞と呼ばれる薄い膜に包まれているが、やがて破れて薄紫色の花が咲く。ただ開花率は低く、花の代わりにむかごがつくこともある。花が咲いても殆ど結実せず、地中で新しい鱗茎が次々とつくられ、それで増えていく。また、初夏に花茎の先についたむかごが落ちて発芽し、新しい株になる。5月初旬時点では、茎が伸びその先に総苞に包まれた花芽がついた状態だ。

ノビルの花芽

 春に成長する雑草は、急に生えるのではなく、何らかの方法で厳しい冬をしのぎ、春になってさぁこれからというときに無惨にも引き抜かれ、ご愁傷さまです。冬を乗り越える方法としては、ロゼット状の葉だけを残し寒さをしのいだり、地下に栄養を貯めたりと様々。陽気の良い春に、他の植物に先立って成長するにはそれなりの仕掛けが必要だ。また、雑草の調査は、美しい花と異なり、結構根気が必要。図鑑やネット情報を基に調べるが、花期などは温暖化のためか、少し早まっている印象も受ける。引き続き、雑草と付き合っていこうかと言う気分になった。