シラン - 身近な蘭の花
シラン(紫蘭)は、ラン科シラン属の宿根草。春になると、地下にある扁平な地下球(バルブ、偽球茎)からササのような葉茎を伸ばし、先端に赤紫色の華麗な花を咲かせ、格調高いランの花の雰囲気を楽しませてくれる身近な存在である。一般にラン科の植物の種子は、特別な条件が無いと発芽しないものが多いが、シランの種子は割と簡単に発芽するので、栽培が容易。日本もシランの原産地であり、関東以西には自生株も存在している一方で、この栽培容易性のために各地で植栽され、今や自生株と栽培株との区別は難しい状態になっている。また、偽球茎が漢方薬の生薬ビャッキュウ(白及)になったり、園芸の世界では育種家によって新しい品種の開発が進んでおり、人との関わりが深く、お馴染みの植物になっている。

【基本情報】
・名称:シラン(紫蘭)
・別名:ベニラン(紅蘭)、ビャクキュウ(白及)、シュロラン(葉が棕櫚に似ているから)
・学名:Bletilla striata
・分類:ラン科シラン属の宿根草
・原産国:日本、台湾、中国
・分布:日本では関東以西に自生するが、栽培種として各地に普及
・花言葉:美しい姿、変らぬ愛、あなたを忘れない、苦しむ勇気
■形態
地生ランで、地下に白色で扁球形の地下球(バルブ、偽球茎)があり、そこからから葉を数枚出す。葉は緑色の先が尖り基部がやや広い広披針形で、縦に平行する葉脈がある。春から初夏に、花茎を出しその茎先から総状花序を伸ばし赤紫色の小花を5~8個つける。花は花茎の下方から咲いていく。


花茎の下方から花が咲く (2015年4月30日 所沢市)
■花
花の中心に蕊柱があり、この中には雌蕊と雄蕊が一緒になって一本の柱のようになっている。その先には葯帽があり、ここに花粉がある。蕊柱を囲むように長く目立つ模様をもつ唇弁(内花被片でもある)があり、これが訪れる昆虫の着地点のガイドの役割を果たしている。シランは何と密を出さないので、このガイドは重要だ。更にその外側には、花弁に相当する2枚の側花弁と、萼に相当する2枚の側萼片と1枚の背萼片がある。如何にの蘭らしい、複雑な構造だ。







■果実
花後には細長い緑色の果実ができ、次第に黄色みを帯びた円柱体に変化する。中には小さな種子が粉末状に入っている。種子からは発芽させるには、親株の近くの菌のあるところが良く、花が咲くまで2~3年かかるので、繁殖については植栽の場合は株分けで行うのが普通。また、種子が飛び出した果実の殻は次のシーズンまで残ることがある。



■花の色
シランの花色は赤紫色が一般的だが、花全体が白い別種のシロバナシラン(白花紫蘭)も存在する。しかし、なかには白い花色だが、全体的に紫がかったいるもの、一部だけが紫がかっているものなど、アナログ的な変化が散見される。これは園芸種なのが、それとも自然交雑によるものなのかは不明。




■シランと日本人
シランは、かつては関東以西の日当たりの良い場所に群生していた地生ランだが、薬用になったり栽培用に乱獲が進み、日本では今や準絶滅危惧種に指定されている。東日本でも地植えで越冬できる程度の耐寒性があるので、観賞用として庭園や住宅地に植えられ、それが野原や山野にも広がり、自生か植栽かを見極めるのは難しい状況になっている。絶滅危惧種と言えば、トキやコウノトリも絶滅の危機を経験したが、保護センターが設けられ、漸く野生への復帰が実現しつつある。だが、これは乱獲のツケを種の保存を名目に人の手によって償っているものだ。シランの場合は、ニーズがあって人手で人家周辺で栽培されているものなので、かなり事情は異なる。シランという種にとって自生か植栽かは大した問題ではないのかもしれない。しかし、人間は大好きなシランを栽培種として育て改良すると、珍しい園芸種が誕生する。これが園芸の範囲で普及するのは良いが、準外来種のようになって原種を駆逐するようになると問題だ。美しいシランの花を見ると、少し複雑な気持ちになる。