ヒメオドリコソウ - 一蓮托生か
ヒメオドリコソウ(姫踊り子草)は、ヨーロッパ原産のシソ科オドリコソウ属の越年草。日本には明治時代中期に帰化した外来種で、主に本州を中心に分布する。春になると道端や空き地など、どこにでも生える。早春に咲く小さなピンク色をした華やかな雑草としては、ヒメオドリコソウ、ホトケノザ、カラスノエンドウが当地では御三家。ヒメオドリコソウの名の由来は、近縁種で在来種のオドリコソウの輪生した花や葉の様子が笠をかぶった踊子に似ていること、そしてオドリコソウに似た姿であり、より小さな本種に"ヒメ"がついたとのこと。しかし両者の印象はかなり異なる。オドリコソウは優雅で日本の踊り子の姿を彷彿とさせるが、ヒメオドリコソウは葉や花のつき方が密で一体化しているので鎧を着た兵士が立っているかのよう。葉の色も紫がかっていて、如何にも異邦人のイメージだ。日本に渡来して未だ100年余り、安易につけられた名前で誤解されいるかも知れない。ヒメオドリコソウとは、どんな植物だろうか。

【基本情報】
・名称:ヒメオドリコソウ(姫踊り子草)
・学名:Lamium purpureum
・分類:シソ科 オドリコソウ属の越年草
・原産地:欧州
・分布:世界的には北米、南米の一部、中国などに分布。日本では、主に本州に分布する帰化植物。
・花言葉:陽気、愛嬌、快活、春の幸せ
■形態
冬はロゼットの姿で越すが、暖かい陽だまりでは春を待たずに花が咲くものもある。若い株は葉の先端まで緑色だが、成長するにつれ茎の先の葉は暗紫色を帯びる。葉は対生し、短い葉柄をもつ。葉の形は卵形で縁は鈍い鋸歯を持つ。葉脈は網目状で窪み、全体に皺があるように見える。また花や葉を支える茎が長いのも特徴だ。学名にある Lamium はギリシャ語の laipos(のど)が語源で、茎が中空で長くてのど状に見えることに由来するとの説がある。


■花
花は明るい赤紫色の唇形花で、上唇片は包み込むような兜の形で、下唇片は先が牙のように2裂し赤い斑点がある。上部の葉の脇から外側に向かって花は開き、上から見ると放射状に並ぶ。まだ寒い他の花が少ない時期に咲くので、昆虫にとっては貴重な蜜の供給源となる。






■果実
ピンクの花が枯れ落ちると、萼に包まれた緑色の4つに分かれた果実が見える。やがてやや褐色となった種子が出てくる。大きな葉の裏で果実は成長するので、外からは分かり難い。


■近縁種 オドリコソウ
ここでは、何かと比較されるオドリコソウに言及しておく。オドリコソウ(踊り子草、学名:Lamium album var. barbatum)は、同じくシソ科オドリコソウ属の多年草。日本の在来種で、北海道から九州の野山や野原の半日陰地に群生。構造的には、ヒメオドリコソウより大きく、葉や花の間隔も広いのでそれぞれが独立したものと見える。花の形は下唇片は3裂し、花の色は淡紅紫色から白色。両者を比較すると、形状のみならず、植物が醸し出す雰囲気が異なるため、混同されることはない。また、歴史の長い在来種のためか、野芝麻(やしま)と呼ばれる乾燥した根が漢方薬として利用される。




■ヒメオドリコソウと日本人
ヒメオドリコソウは暗紫色の葉の裏で秘かに果実を実らせ、旺盛な繁殖力で在来植物を駆逐することがある厄介な植物だ。だがその一方で、早春の寒い時期に花を咲かせ、高糖度の密で多くの昆虫を養っている。また、好事家の間では、食用として天ぷらやゴマ味噌和え、ハーブティーなどにしている。普通の日本人にとっては春を告げてくれる可愛い花だが、カタクリやシュンランのように儚く消えることもなく、年中存在し続ける。毎年、家庭菜園で春耕する際は必ず出逢う。畑仕事で手抜きすればまた出逢う。かといって、これだけ広く拡散していると、どうすることもできない。状況に応じて柔軟に対応してくしかない。