ムラサキケマン - 美しく危険で風変わりな存在
ムラサキケマン(紫華鬘)はケシ科キケマン属の越年草。名の由来は、花の形が仏具の華鬘に似ていることからとの説があるが、これはイメージに合わず、ケマンの名称は単なる記号と考えたほうが合理的だ。日本全国に分布し、直接日光の当たらない木陰や林縁に自生し、春に赤紫色の独特な筒状の花をつける。美しいが毒性があるので、危険な雑草として生き続けている。また、夏に地上に落ちた種は、いつ発芽するかによって、翌年または翌々年の春に花をつける。危険でもあり、変わった性格でもある美しいムラサキケマンとはどんな植物だろうか。

【基本情報】
・名称:ムラサキケマン(紫華鬘)
・別名:ヤブケマン、ネコイラズ、ハッカケ
・学名:Corydalis incisa
・分類:ケシ科 キケマン属の越年草
・原産地:不明、日本の在来種。中国、台湾にも分布。
・分布:日本では全国各地
・毒性:全草に神経性毒のアルカロイド(プロトピン)を含む
・花言葉:喜び、あなたの助けになる
■生態
ムラサキケマンの生態は、いつ発芽したかによって変わる。ムラサキケマンの種子は春の終わりにできる。冬に発芽したものは、そのまま成長を続けて、翌年の春に花が咲く。一方、翌年の春以降に発芽したものはゆっくり生育して次第に根が太くなり、冬を越して春にはロゼット状の根生葉を出し、2年目の春に開花する。いずれの場合も、開花、結実後は急速に弱り、種子を残して枯れてしまう。


■花
春になるとキケマン属に独特の筒状の花が咲く。花の後方に蜜が入った長い距(きょ)が突き出し、前方には上下に赤紫色の唇形の花びらが2枚ある。また更に、花の前方中央部に左右から合わさった2枚の白色の花弁があり、この中に雄蕊と雌蕊が入っている。従って花弁は、外側に上下に赤紫色のものが2枚、その内側に白い花弁が左右に2枚の計4枚。虫媒花で昆虫が訪れると下唇の花びらにとまり、中央の白い花びらを越えるようにして距の奥にある蜜を口吻で吸う。このとき、昆虫の重みで花びらが下がり、雄蕊と雌蕊が下から露出して昆虫の身体に接触する。








■果実
花後に細長い果実ができ、その中に数個ずつ種子が入っている。果実の皮が緑色でも、中の種子が成熟すると軽く触れただけで勢いよく弾けて種子を飛ばす。また、種子にはアリの好物であるエライオソームがついており、アリによって遠くへと運ばれていく。


■近縁種
ムラサキケマンの花の色は赤紫色ということになっているが、その濃淡はかなり個性がある。外側の花弁の上下唇部分は赤紫色であるが、長い距の部分が少しでも紫がかっていればムラサキケマンと呼んで良さそう。しかし、長い距の部分が白いものもある。これは、同じケシ科キケマン属のシロヤブケマン(白藪華鬘)として区別されている。ムラサキケマンとシロヤブケマンは自生地も花期も重なっているので、両方とも良く見かける。更に、唇部分も白いユキヤブケマンと言う完全な白花もあるが、当地では見かけたことはない。


■ムラサキケマンと日本人
ムラサキケマンは古来からの在来種で、日本人には馴染み深い。しかし、全草にプロトピンを含む有毒植物であり、嘔吐、呼吸麻痺、心臓麻痺などを引き起こす原因となる。また、ウスバシロチョウの幼虫の食草であり、このためウスバシロチョウをも有毒にしてしまう。おまけに、植物体から出る汁は悪臭がする。これでは、少しも役に立たない雑草と言って良い。しかし、発芽の時期によって生活史をも変えうる強かな生命力を持ち、春になると日陰の林で赤紫色の鮮やかな花を咲かせる。この風情はなかなか捨てがたい。ムラサキケマンは美しくもあり危険で風変わりな存在だ。