カラスノエンドウ - 共生する雑草
カラスノエンドウ(烏野豌豆)は、マメ科ソラマメ属のつる性の一年草または越年草。良く知られた別名ヤハズエンドウ(矢筈豌豆)でも呼ばれる。北海道を除く日本各地で雑草として自生しているが、原産地は地中海東部沿岸地方で、古代オリエントでは小麦と一緒に食用としても栽培された。これは、マメ科植物の根に共生するバクテリアが小麦畑の土壌改良にも役立ち、一石二鳥だったようだ。日本では春になると地表に湧き出る雑草の一つとしか認識されていないが、人間との関わりも深く、小さな可憐な赤紫色の花を咲かせるカラスノエンドウとはどんな植物なのだろうか。

【基本情報】
・名称:カラスノエンドウ(烏野豌豆)
・別名:ヤハズエンドウ(矢筈豌豆)、ノエンドウ(野豌豆)
・学名:Vicia angustifolia L. var. segetalis
・分類:マメ科 ソラマメ属のつる性の一年草または越年草
・原産地:地中海沿岸
・分布:日本では、本州、四国、九州、沖縄の野原や道端など
・利用:食べられる野草
・花言葉:小さな恋人たち、喜びの訪れ、未来の幸せ
■形態
春になると陽当りの良い路地に、断面が四角い茎を上に伸ばす。葉は10枚程度の小葉がついた偶数羽状複葉で茎に互生し、次に出る葉は折り畳まれた状態で待機している。葉の先端は、3本の巻きひげになっていて、近くのものに絡みつく。小葉は細長い楕円形で、先端は矢筈状に少しへこむ。


■花
花は春から初夏に開花。茎と葉の分岐点の葉腋に短い総状花序をつくり、マメ科独特の蝶形で赤紫色の花を1~3個つける。蝶形の花は花弁は5枚、内側の竜骨弁が2枚、それを囲むように翼弁が2枚、その上にある大きな旗弁が1枚。そして、雄蕊は10本で基部で合着して二体雄ずいを形成し、雌蕊は1本だが、花弁の奥にあり外からは見にくい。花の付け根には花外蜜腺とよばれる黒い点があり、ここから蜜を出してアリを呼び寄せ、他の害虫を追い払ってもらう。






■カラスノエンドウと昆虫
カラスノエンドウにとって害虫にあたるアブラムシは、カラスノエンドウの汁を吸い、アリの好む甘い排泄物を出す。アリはこれを求めて集まるが、アブラムシとアリの関係はWin-Win。また、てんとう虫やその幼虫はアブラムシを捕食するため、てんとう虫はカラスノエンドウにとって益虫。また、アリは花の付け根ある花外蜜腺に集まり、他の害虫を追い払らう。この点についてはアリは益虫。集まる虫も多いが、利害も複雑。



■果実
花が終わると、サヤエンドウを小さくしたような平たい豆果がつく。豆果は熟すると黒くなり、これがカラスノエンドウの名の由来である。中には5~10個の種子があり、熟すと種子をはじき飛ばし、よじれたサヤの皮が残る。



■近縁種 スズメノエンドウ
カラスがあればスズメもある。スズメノエンドウ(雀野豌豆)も同属の植物で、分布も花の時期も同じ。カラスノエンドウと比較すると、形はよく似ているが、茎も葉も花も小さい。しかも花の色は白で、ゴマ粒程なので目立たない。散歩していてもその存在には気が付かないほど地味な存在だ。しかし、食用になったり土壌改良に有益なのは同じ。生物多様性と淘汰とはどのような関係があるのか考えさせられる。


■カラスノエンドウと日本人
日本では雑草とみなされているカラスノエンドウだが、人類にとって有益な点は2つある。1つは食用になることで、若いサヤや葉をかき揚げにしたり、実を豆ごはんにしたりして、現在の野草料理愛好家に人気がある。2つ目は根に共生する微生物の根粒菌が土地に窒素を供給して、畑地の土壌改良に役立つこと。古来よりこれらの恩恵を受けてきたが、飽食に慣れ、効率を追求して化学肥料を多用する現在の日本では顧みられることはない。春になって赤紫色の可憐なカラスエンドウの花を見ると、もっと自然に寄り添いシンプルな生活スタイルもあるのではないかと想像してしまう。