アセビ - 万葉の時代から愛でられた花
アセビ(馬酔木)はツツジ科アセビ属の常緑低木樹。日本は原産地の一つで、北部を除く本州や四国、九州の山野に自生。春になると壺型の白やピンクの花が房状に多数ぶら下がり、華やかな気分にさせてくれる。このため、民家の庭や公園樹としても栽培されるお馴染みの春の花だ。しかし、美しいものには毒がある諺通り、アセビは有毒植物だ。アセビの葉には有毒成分が含まれており、馬が葉を食べると酔ったようにふらつくことから、アセビの漢字表記を馬酔木するようになった。また、英名のJapanese andromedaの名称は古代ギリシャの女性アンドロメダに由来するが、同じツツジ科のヒメシャクナゲ(学名:Andromeda polifolia)の壺型の花の形が単に似ているためであり、西洋由来の植物ではない。
アセビは春の開花時期を過ぎても、地味ながら生育を続ける。花が終わると緑色の果実ができ、ゆっくりと時間をかけながら成熟し、翌年の花の時期には乾燥して種子が飛び出す。また、花後にやや赤みがかかった新しい葉が伸びるがやがて緑に変化する。秋には新しい花芽の房を出し成長を続け、3月になると再び開花を迎える。春以外は人目につかない常緑の低木だが、なかなか抜け目なく絶えず生存のための活動を続けている。

【基本情報】
・名称:アセビ(馬酔木)
・別名:アシビ、アセボ、ヒガンノキ
・英名:Japanese andromeda
・分類:ツツジ科 アセビ属の常緑低木
・原産国:日本、中国
・分布:日本では本州(山形、宮城以西)、四国及び九州に自生
・用途:観賞用に栽培もされる
・花言葉:献身、犠牲、あなたと二人で旅をする
■蕾
夏になると葉のつけ根から、蕾の付いた穂が上向きに出てくる。蕾の成長とともに穂は下向きになり、開花の時期を迎える。



■花
枝先の葉のつけ根から有柄の多数の花が花序軸に均等につく総状花序で、花は下向きに垂れる。花冠は長さ数mmの壷型で先は浅く5裂する。雌蕊を取り囲むように雄蕊が10本あるが、花の開口部が小さく外からは見にくい。雄蕊には毛が生えているが、受精のために飛んできた昆虫との距離を縮めるためかもしれない。萼も5裂し、その色は緑色や赤など様々。






■果実
花が終わると緑色の果実ができ、ゆっくりと時間をかけながら成熟する。そして、翌年の花の時期には乾燥して種子が飛び出す蒴果だ。直径5〜6mmの扁球形で、上向きにつき、5裂する。先端に長い花柱が残る。種子は長さ2〜2.5mm。



■アセビと日本人
アセビは有毒植物であることを日本人は承知しており、かつては殺虫剤としても利用されていたこともあった。また、草食性のニホンジカ等の食害を避けるために、奈良の春日大社や奈良公園などではアセビだらけの景色を作り、ニホンジカを近づけないようにした。有毒を逆手に取った見事な作戦だ。
文学においては、万葉集にアセビを詠んだ歌が10首程ある。例えば、その主旨は、
・美しく咲き薫う馬酔木の花に恋心を比喩させて歌う
・恋心の高さを馬酔木の花姿の美しさに重して切々と詠じる
・池水に影までも映して美しく咲きほこる馬酔木の花をしごき取って袖に入れたい
というものだ。これは、アセビの花に歌人の心情を託したものだ。どちらかというと簡素で地味なアセビの花は、かえって多感な万葉歌人にとって感情移入をし易かったのかもしれない。また、俳句や詩歌の季語では、アセビは晩春を指し、やはり花の最盛期。日本人にとってアセビと言えば、やはり春に房なりに咲く花と言うことか。