ホトケノザ - 只者ではない雑草
ホトケノザ(仏の座)はシソ科オドリコソウ属の一年草あるいは越年草であり、春の開花期になると野原や道端等に群がって自生する。ホトケノザの葉は縁にギザギザがある半円形で、2枚の葉が隙間なく茎を取り囲むように生え、これが仏様が座っている蓮華座に似ているので仏の座と呼ばれている。そしてその上に仏様である紫がかった桃色の花が鎮座する。また、葉が段々になって生える様子が三階建ての住宅の屋根を思わせるためサンガイグサ(三階草)と言う別名もある。原産地は不明、ユーラシア大陸やアフリカ大陸説、果ては日本説もあり、世界的に広く分布する。日本では、本州から沖縄の各地に分布するが、北海道にはないので、比較的温暖な気候を好むようだ。春の極ありふれた雑草ホトケノザはどんな植物なのだろうか。
【基本情報】
・名称:ホトケノザ(仏の座)
・別名:サンガイグサ(三階草)、ホトケノツヅレ(仏の綴れ)
・学名:Lamium amplexicaule L.
・分類:シソ科 オドリコソウ属の一年草あるいは越年草
・原産:不明
・分布:ユーラシア大陸、アフリカ大陸。日本では、北海道を除く本州から沖縄
・花言葉:輝くこころ


■花
ホトケノザの蕾や花は2枚の葉からなる蓮華座の上に中心を取り巻くように配置され、それが四角い茎に沿って何層かにわたって存在する。ホトケノザのような形状の花は唇形花と呼ばれ、上唇はかぶと状で短毛がびっしり生え、下唇は2裂し濃い紅色の斑点がある。上唇の内側には4本の朱色の雄蕊が連なっており、雌蕊はその雄蕊の中に埋もれて良く見えない。この構造は自家受粉しそうでかなり危ない。花の奥には密があり、ハチやアブが花に頭を突っ込むとその背中に雄蕊の花粉が付いて外に運ばれていき、他の個体が受粉することになる。




■開放花と閉鎖花の二刀流
ホトケノザは本来開放花で、昆虫などによって他の個体の花粉を受粉して遺伝的に優位な子孫を残そうとする。ところが、いくつかの理由で閉鎖花を作り、仕方なく自家受粉することがある。ホトケノザが開花するのは早春の未だ寒い時期で花粉を媒介する昆虫が少ないため、閉鎖花により自家受粉することがある。この閉鎖花の中には花柱も蕊もあるので自家受粉は容易だ。ただし開放花も閉鎖花も蕾の形状は同じで、見た目では区別はつかない。また、同じシソ科オドリコソウ属 のヒメオドリコソウとは花期や生育地も重なるため、近縁種との交雑を防ぐため閉鎖花を作るという説もあり、ヒメオドリコソウが生育している場所では、ホトケノザの閉鎖花の割合が高くなることが報告されている。そう言われるとこの2種の交雑種は見たことがない。なかなか自律的な生存戦略と思う。

■葉
葉は対生で鈍い鋸歯があり、茎の上部では葉柄はなく茎を抱くように真ん中で合わさって丸くなり(仏の座)、下部では葉柄を持つ円形になる。


■ホトケノザに集まる虫
ホトケノザには様々な昆虫が集まってくる。先ず、蜜を求め花粉を運んでくれるハチやアブがいる。これはGive & Takeの関係だ。それから良く見るとアブラムシがあちこちにへばり付いている。アブラムシはホトケノザが光合成で作った養分を運ぶ茎や葉にある師管から養分を吸収しているので、これは寄生にあたる。また、アリを見かけるが、どうやらホトケノザの種子を運んでいるようだ。種子にはアリが好むエライオソームと呼ばれる物質が含まれ、アリによって巣の近くに運ばれ、芽吹くらしい。これはGive & Take。ホトケノザは、共生、寄生を含め多様な昆虫を集めている。



■種子
ホトケノザの種子は花の枯れた跡にできる。熟した種子は地上に落ちだり、アリに運ばれたりして次世代に命を繋ぐ。

■ホトケノザと人間
春の七草の一つである"ホトケノザ"は本種のことではなくキク科のコオニタビラコであり、誤解を受け易い。本種は食用にも薬用にもならず、残念ながら直接的に人間にとって有益なものではない。しかし、自然栽培をしている農家によれば、雑草はその畑の土の状態を知らせるバロメーターであり、ホトケノザが生育する土壌は比較的肥沃と言われている。その土地を作物を栽培するため耕すとホトケノザの様な雑草の残余が堆肥や肥料となり、畑の土壌を豊かにしてくれる。目立たないところで重要な役割を果たしている。
また、生態に関しても自律的に閉鎖花をコントロールし、環境の変化に対応できる能力は只者ではない雑草だ。


