セツブンソウ - 春への憧れ

 セツブンソウ(節分草)はキンポウゲ科セツブンソウ属の多年草。春に落葉樹の林で真っ先に花をつけ、夏になると姿を消す"春の妖精"(スプリング・エフェメラル、正式には"春植物")の一つ。節分(立春の前日)の頃に開花するので、節分草と呼ばれている。日本の固有種で、本州の関東より西に自生。石灰質の土壌や半日陰の涼しい場所を好み、秩父の小鹿野町両神には大きな群生地がある。

セツブンソウ (2004年3月19日 横瀬町芦ケ久保)

【基本情報】
 ・名称:セツブンソウ(節分草)
 ・学名:Eranthis pinnatifida Maxim.
 ・分類:キンポウゲ目 キンポウゲ科 セツブンソウ属の多年草
 ・分布:日本固有種で関東以西の本州
 ・花言葉:気品、光輝、微笑み、人間嫌い

■根生葉と茎葉
 セツブンソウは春に花が咲き、夏には地上部分から姿を消す。その後、地下に球状の根塊から根を出して成長しながら春を待つ。春になると葉が生えるが、これには2種類ある。株元から出る根生葉と茎から出る茎葉だ。根生葉の外形は5角形で深く3つに裂け、それぞれの裂片はさらに細かく分かれる。学名のpinnatifidaは羽根のように裂けているという意味で、根生葉の形に由来する。茎葉は花の直下にあり、3つに裂けた2枚の葉が対になっている。この茎葉に上に蕾ができ花が咲く。
 群生したセツブンソウの写真で、花の下にあるのが茎葉、花がついていない5角形のものが根生葉である。

セツブンソウの群生 (2023年2月28日 東京都薬用植物園)

■花の構造
 先ず、茎葉の上に白い蕾が出来る。未だ花弁は開かず、わずかに雄蘂や雌蕊が見える。ところがこの白い花弁のようなものは萼片とのことだ。かなり花の構造は複雑なようだ。

蕾 (2024年1月30日 東京都薬用植物園)

 開花した様子を様々な角度から見てみよう。花の中央部は円心上に、中央に赤紫色の2~5本の雌蕊、その周囲を紫色の多数の雄蘂、最外周に黄色の蕊のようなものが取り囲む。この黄色の部分が、何と花弁に相当する。花弁の形は逆四角錐形をしており、底に蜜を出す蜜腺がある。花弁の上方の外側の2つの頂点は黄色い球形をしているので良く目立つが、内側の2つの頂点は黄色い点が小さいか見えないので目立たない。そのため花弁は2つの黄色の先端がYの字状になっているように見える。その結果、花弁の数は7~8本程度。昆虫は目立つ黄色を目指して密を求めて集まり、花粉を運ぶ。 また、一説には虫媒花であるとともに風媒花でもあるらしい。昆虫の少ない寒い時期に生き延びる手段なのかもしれない。

開花直後 (2023年2月28日 東京都薬用植物園)

花の様子 (2023年2月28日 東京都薬用植物園)

黄色い4つの点が逆四角錐の花弁を形成している例 (2012年3月4日 東京都薬用植物園)

花の様子 (2023年2月28日 東京都薬用植物園)

花の様子 (2023年2月28日 東京都薬用植物園)

花の様子 (2023年2月28日 東京都薬用植物園)

ハナバチが密を吸う (2023年2月28日 東京都薬用植物園)

■日本人とセツブンソウ
 日本人にとってセツブンソウは、その名の通り春の節分を知らせる山野草であり、スプリング・エフェメラルと呼ばれる植物の中でもとりわけ早く咲き、馴染み深い植物だ。けれども、地質や環境等の生育制約が多く準絶滅危惧種にもなっていて、身の回りで自生株に出会うことはまずない。植物園や自生地に出かけるのも良いが、大方の日本人は栽培株を育てながら、自生のセツブンソウと同期しながら早春の季節の移り変わりを楽しんでいるのだと思う。セツブンソウには実用的な期待は不要(現実にも皆無)。セツブンソウは春へ憧れを昇華する手段となっているのだ。