オモト - 金生樹か?

 オモト(万年青)の歴史は波瀾万丈。野生種としては中国から日本の温暖な山地に自生するスズラン亜科の常緑多年草であるが、観葉植物としても栽培されて江戸時代には大変なブームとなって、貴重な品種は投機の対象となり"金生樹"と呼ばれた。現在でもネット情報を調べると、植物学的なオモトの記述よりも、園芸種としての栽培法や鉢植えビジネスの話題が多い。オモト愛好団体も組織され、江戸時代から連綿と続く古典園芸植物としての伝統が強いのだろう。しかし、ここ狭山丘陵付近の散歩では勿論金生樹はなく、民家の庭や畑の脇でごく普通のオモトがあるばかりだ。

■オモトの特徴
 オモトの葉は厚い革質で左右対称に広がり、長さは30~40cm程度で先端が尖る。地下にある短くて太い茎から生じるため、地際から直接葉が生えているように見える。しかもこの立派な葉が四季を通して茂っていること、そして大きな葉に包まれて赤い実がなる様子は親子を連想させることから縁起が良いとされている。

オモトの葉と実 (2012年1月28日 所沢市)

【基本情報】
 ・名称:オモト(万年青)
 ・学名:Rohdea japonica (Thunb.) Roth
 ・分類:キジカクシ科 スズラン亜科 オモト属
 ・原産地:日本、中国
 ・分布:日本では関東南部から沖縄まで自生
 ・生態:自生、及び古典園芸植物
 ・花言葉:長寿、長命、母性の愛

■オモトの花
 初夏になると、葉の間から花茎が伸びてその先端に黄緑色の小花が穂状に咲く。花には柄がなく花茎に密着した変わった形をしており、芳香があるが見た目は地味。これでは受粉のために虫を呼ぶのは厳しそう。意外なことに、野生のオモトでは花粉を媒介するのは、何とカタツムリとのこと。地味な花の理由が納得できた。

円筒形の蕾の集団 (2023年5月10日 東京都薬用植物園)

開花した花 (2013年6月1日 所沢市)

■実の形成
 花が終わると、秋には緑色の実をつけ、次第に黄色から赤へと変化していく。実が熟すと艶のある果汁の多い実となり、その中に種子が1~3個含まれる。この実はヒトにとっては有毒だが、ヒヨドリ等には食料となり、種子が運ばれていく。

緑色から黄色に色づくオモトの実 (2013年10月13日 所沢市)

赤く熟したオモトの実 (2012年1月28日 所沢市)

鳥が実を運び、晩冬にはわずかな実が残る (2012年2月4日 所沢市)

■人間との関係
 オモトには薬効がある。植物全体にサポニン等を含み、溶血作用があり、薬用として強心、利尿薬として利用される。同時に、毒性が強い有毒植物でもあり、呼吸、循環機能に障害や、嘔吐、頭痛、不整脈、血圧降下を起こし死に至ることもある。薬にも毒にもなりそうだが、かなり危険な植物と思っていたほうが良さそうだ。

 オモトの本来の姿は、常緑の大きな葉と、それに抱かれた赤い実、大変シンプルな構成だ。これを基に、人間は大変な時間と労力をかけ、葉の形や色、模様を変えた。その様な変わった園芸種を見ても、やはりこれはオモトだと思う範囲にある。これが重要なのかもしれない。育種家はオモトの芸と称して、既存のオモトとは少しでも異なるオモトを創りたかったのだろう。それがオモトの”金生樹”となるのだ。朴念仁には良く理解できない世界だ。

 凡人は冬の散歩道でオモトを見かけただけで感激する。単細胞生物だ。