ナンキンハゼ - 巡る四季の風情
紅葉と言えば、モミジやカエデのように葉の切れ込みの深い赤や黄のものを想像するが、ナンキンハゼの紅葉も美しいが形も色も異なる。葉の形は菱形に近く先がやや尖っておりシンプルな形をしているが、秋の葉の色づきは緑から黃、赤へと変化する過程がグラデーションを保ちながら一つの葉の中で表現され、大変美しい。ムクロジ科カエデ属のモミジやカエデとは異なり、ナンキンハゼはトウダイグサ科ナンキンハゼ属の落葉高木で原産地が中国なのでそもそも性格が異なるようだ。近くの公園にナンキンハゼがあるのでじっくり観察してみると、四季を通して楽しめる。春に枝から若葉が出ると、初夏には黄緑色の小さな花が穂になって咲く。この時期には蜂が密を求めて飛び回り羽音が耐えることがないので、大変賑やか。夏の盛りには緑色の果実ができ、秋にはこれが黒くなりやがて割れ、3個の白い種子が現れる。紅葉は晩秋から始まり初冬には落葉。年末には果実のみ残し、春まで冬眠状態に入る。半年余り活動期で見所が満載だ。
【基本情報】
・ 名称: ナンキンハゼ(南京櫨)
・ 英名: Chinese tallow tree
・ 学名: Triadica sebifera (L.) Small
・ 分類:トウダイグサ科 ナンキンハゼ属の落葉高木
・ 分布: 中国原産。日本では本州・四国・九州で公園、街路に植栽される
・ 油糧作物: ハゼノキ同様に、種子から蝋や油を採取
・ 薬用:根皮や茎皮を乾燥した烏臼(きゅう)は利尿剤や緩下剤となった
・ 有毒:種子にはジテルペン酸エステルが含まれ、皮膚がかぶれや嘔吐や下痢、腹痛の原因となる
・ 花言葉:真心、心が通じる
■ナンキンハゼの四季
自宅近くの公園にあるナンキンハゼの木。周囲の樹木とは適当な距離を保って植栽され、日当たり良好、高さは10m余り。剪定された様子はなく本来の姿のよう。この木を中心に観察した。

□ 春
4月になると若い葉が枝から伸びてくる。出始めは少し赤みがかっているが、やがて鮮やかな黄緑色になる。そして、葉柄の基の部分から両側にヒゲのような托葉が発生するが、成長するに従い消えていく。

□初夏
ナンキンハゼは雌雄同株で開花は初夏。雄花は黄色で小さな花が集まって穂のようになる。これを総状花序と呼ぶらしい。雄花の雄蕊は2つで、萼は浅く3裂。一方、雌花は自家受粉を避けるため雄花より先に開花し、この雄花の花穂の根本に0から数個付くのが普通とのこと、この時間差はしたたかな生存戦略だ。雌花の特徴は子房の花柱は3裂し、雄花より大きめ。ところが、今回はこの雌花の開花を見逃してしまったようだ。同じ木に果実は確かに成っているので雌花は咲いた筈。来シーズンの宿題だ。



雄花が咲くと昆虫が集まってくる。ナンキンハゼの花は地味で視覚的には目立たない。昆虫には感じる匂いでも出しているのだろうか。花序は多数並んでいるので、密を集めるには都合が良い。多数のミツバチが飛び回り、羽音が絶えることはない。まるでラッシュアワーの駅にいるよう。


□ 盛夏から初秋
夏になると花序は枯れて細い糸のようになって枯れていく。それに代わり、緑色の果実が現れる。3つの楕円体を併せたような形をしている。中にどんなものが入っているのだろうか。やがて果実の表面が黒くなり、外皮が割れると白い種子が現れる。予想通り、3個一組だ。種子の表面を覆う白い種皮は蝋質で、かつてはろうそくの原料に使われていたらしい。


□ 秋
果実の外皮が割れ、種子がむき出しになった頃から紅葉が始まる。白い種子と色づいた葉の対比が見事だ。


また、葉の色づきはモミジ等とは異なり、色変わりのグラデーションが素晴らしい。一般に葉の色は、夏には光合成の効率向上のため、葉の中に含まれるクロロフィルが光の3原色のうち青と赤の光を吸収して緑の光を反射する。秋になると光合成は不要になるので葉を落とし、樹木の体力維持しようとする。この過程で、葉の中ではクロロフィルを分解してアントシアニンを合成する。アントシアニンが優勢になると、葉は赤くなる。この時期の葉の色は、クロロフィルとアントシアニンのせめぎ合いで決まるのだろう。ナンキンハゼの葉は分厚いため同じ葉の中でこのせめぎ合いが局所的に起きて、グラデーションが生じるのだろうか。


□ 冬
冬になると葉は落ち、枝には白い種子の塊が残る。この種子は人間にとっては有毒成分が含まれるが、多くの鳥にとっては冬の間の餌となる。また、ナンキンハゼからすると、鳥に種子を遠隔地に運んでもらうので、Win-Winの関係になるようだ。


■ナンキンハゼと日本人
ナンキンハゼは、江戸時代に中国から輸入された。有用植物として蝋の原料や薬用として利用するためである。しかし、日本で本格的に植栽されたのは時代が下って、公園樹や街路樹としてだった。これは日当たりが良ければ育ちが早く、見た目も美しいためと思う。一方で、繁殖力が強く、日本の生態系に被害を及ぼすおそれのある外来種リストにも登録されているので、日本では限定的に利用されているのが実態のようだ。
奈良の若草山ではシカが放し飼いされているが、シカはナンキンハゼを嫌って食べない。このため、ナンキンハゼが増え過ぎてこれまでの生態系が維持できなくなり、一部の地区でナンキンハゼの伐採を始めた。同様に淡路島や松山市の北条鹿島でもナンキンハゼとシカの問題が起きている。逆にシカの食害が激しいところでは、ナンキンハゼを植えればある程度防げるかもしれない。しかし、一旦ある目的でナンキンハゼを植えた後は、その繁殖をコントロールすることは人間が介在しても難しい。外来種の取り扱いは充分な考慮が必要だ。
なお、自宅近くにもナンキンハゼの若木がある。周辺にナンキンハゼの成木はないので、鳥によって種子が運ばれたものではないだろうか。一つは団地の遊歩道脇、もう一つは狭山湖のダム堤防の中で、日当たり良好で成長中。これは日本各地で起きている現象と思う。

